時間はかかるけど書き続けて
書店の近くのカフェでヴィオレットは立ったまま電話する。
相手はボーヴォワール。
「死んでしまいたい。周りに吹聴したのに本屋に置いてないのよ」
「ガリマール(書店、発行元)に電話するわ」
「どうやって生きれば? 小さい頃からずっと生きづらかった」
「書くことで与えられるのよ。社会があなたに拒んできたものが。
時間はかかるけど、書き続けて。私が見ているわ」
「手を握ってくれたら」
「そうするわ、ずっと握り締めている」
「愛している」
冷静に考えれば、処女作をガリマール書店から出せるなど、
新人には恵まれたスタートです。
本屋に置いてないと嘆くが、店員の言うことが正しい。
大きな駄々っ子みたいなヴィオレットを
根気よくボーヴォワールはなだめています。
〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」〜