ジュネ、ヴィオレットよ
男がひとり、ふらりと近づいてきた。
「ちょうどよかった、ジュネ、ヴィオレットよ」と
ボーヴォワールが引き合わせた。
ヴィオレットは「薔薇の奇跡」を読んだばかりだ。
「シモーヌが君の本を褒めているよ」とジュネ。
午後というのに今しがた起きてきたばかりらしい。
「サルトルは?」と訊くボーヴォワール。
例によって飲みすぎて明け方に帰った、とジュネ。
そばにいるだけで、マグマがドロドロしているような男や女の熱量に
ヴィオレットは圧倒される。
〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」〜