Diversity Studies

どんな苦労でもするよ

〜 「トム・オブ・フィンランド」27

どんな苦労でもするよ   「ロスには名医がいる。喉頭ガンも治せるよ」 トムは続ける。 「庭付きの家に住んでオウムが飼える。 人口の大半はゲイだ。 逆にストレートは差別されるのさ。 だから助けてやるんだ。彼らにも自由に生きる権利があると。 ヴェリ、君のためならどん...

アメリカにはいい男がいたか

〜 「トム・オブ・フィンランド」26

アメリカにはいい男がいたか   トムが一時帰国した。 相変わらずヴェリは妙な咳がやまなかったが、明るく訊いた。 「アメリカ進出か。アメリカにはいい男がいたか。 君が描くみたいな」 「ああ、いたよ。だが1人たりともあるダンサーほどには 賢くて、優雅で、セクシーではなかっ...

君が彼らを特別にした

〜 「トム・オブ・フィンランド」25

君が彼らを特別にした   「なあ、トム」とダグ。 「俺たちの仲間は逃げてきた。家や学校や、病気から逃げてきた。 否定され、差別されて」 ジャックはこう言う。 「地元では殴られる。最低だよ」 ゲイが受けてきた差別。軽蔑から逃げるしかなかった存在。 「君がそんな仲間...

描くのをやめる

〜 「トム・オブ・フィンランド」24

描くのをやめる   しかし出来上がった作品集にトムは不機嫌だ。 「とんだ粗悪品だ。オナニー本さ」 「そのおかげで人気が出たんだ。誰も表紙以外、気にしないよ」 たかがそんな雑誌か。 「なら描くのをやめる」不満を募らせるトムに ダグが冷静に話しかけた。  ...

これにサインしてくれ

〜 「トム・オブ・フィンランド」23

これにサインしてくれ   トムは初めてのアメリカに目を見張る。 北欧とはまるで違う太陽の光。街の人々の開放的な姿。 衣服、彩り、賑わい。何もかも別世界だ。 夜のロスのトムの個展会場は、小さな狭い店だったが 制服の男たちが詰めかけ、ひしめいた。男、男、男。 「これにサイ...

アメリカ乾杯!

〜 「トム・オブ・フィンランド」22

アメリカ乾杯!   アメリカの出版者ダグから手紙が来る。 「アメリカに来てくれと。小さな個展を開きたいそうだ」 トムとヴェリは祝杯をあげた。 「アメリカ乾杯!」 ヴェリは苦しそうな咳をしている。 「医者に行けよ」 「行ったよ、そのうち治るよ」 「次は君も一...

表紙に使えそうだ

〜 「トム・オブ・フィンランド」21

表紙に使えそうだ   トウコはペンネームをトムと変え、作品集を投函した。 アメリカのロスアンジェルス。小さな事務所で ポルノ系雑誌の出版者2人が作品を見ている。 「表紙に使えそうだ」 「表紙の画家にしちゃ名前が地味だな」 「トム、トム…トム・オブ・フィンランドでいこう...

外交官の同性愛が発覚

〜 「トム・オブ・フィンランド」20

外交官の同性愛が発覚   新聞が1面トップで打ち抜いた。 「外交官の同性愛発覚」 新聞を手にトウコが力なくつぶやく。 「哀れなヘイッキ。どうすればいい?」 哀れなとはどんな意味か。 逮捕されたことか。 それともゲイを治療して再出発しようとしたことか。 にも...

治療して子供を持ちたい

〜 「トム・オブ・フィンランド」19

治療して子供を持ちたい   トウコは入院中のヘイッキ(大尉)を見舞った。 「ここはいい」大尉は心静かに言う。 「君は病気じゃない。ここを出よう」とトウコ。 「治療して子供を持ちたいのだ」 「バイクのクラブを始めたのだ」 トウコは明るく言うが 「トウコ。これ以上何...

外で隠れず君と手を繋ぎたい

〜 「トム・オブ・フィンランド」18

外で隠れず君と手を繋ぎたい   ヴェリが言った。 「2人で暮らそう」 「妹がいる」 「カイヤは30歳だ。独り立ちしている」 「生活費は?」 「君の絵を売る」 「この国で売れるものか」 トウコは歯切れが悪い。 「外国へ売る。外で隠れず君と手を繋ぎたい」...