まず謝らせて
「ヴィオレット、どうぞ」
ボーヴォワールは親しく名を呼び(ヴィオレットの姓はルデュック)
招じ入れた。
「まず謝らせて。金持ち娘の退屈な自伝かと思ったら違った。
素晴らしい本よ。力強く大胆で、そこがとても重要。
長く書いているの?」
「ちょっとした記事だけです。
小説はモーリスの勧めで」
ヴィオレットは逃げた恋人の名をあげる。
「モーリス・サックスね。彼は読んだ?」
「冒頭だけ。今はドイツに」
「彼はあなたと違って言葉で自分を隠している。
でもあなたに書く道を開いた。
いずれにせよ彼の部分は削除したほうがいいわ。
次回作のためにとっておいて」
テキパキと具体的な質問と批評とアドバイスをした。
〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」〜