エマニュエル・ドゥボス

いや、彼女には君が必要だ

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(18)〜

  いや、彼女には君が必要だ   ヴィオレットの原稿を読んだジェネ。 「大胆な女だな。シモーヌにこれを? とことんやれよ」 「嫌われる」 「いや、彼女には君が必要だ。サルトルは俺に夢中。 シモーヌは君。平等だろ。金をやろう、遠慮せず受け取れ。 ゲランは君が...

ジャック・ゲラン

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(17)〜

  ジャック・ゲラン   「邪魔かな?」ジュネがヴィオレットを訪ねてきた。 「君のファンを連れてきたよ。手稿の収集家でね、 ジャック・ゲランだ」 「窒息」を読んで「胸が引き裂かれました」とゲランは言った。 「仕事は何?」 「香水屋です」。あのゲラン? ...

私は移動する氷河

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(16)〜

  私は移動する氷河   ヴィオレットがいきなりキスしたものだから突き放し 「出てって」「いやよ」ときた。 「時間のムダ」取り合わずデスクに向かうと、ややあってドアが閉まった。 その夜、ヴィオレットの夢を見た。 彼女が詩を読んでいる。 「マダムが私を愛した...

私の顔が嫌いなのでしょ

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(15)〜

  私の顔が嫌いなのでしょ   階段に座ってヴィオレットがボーヴォワールの帰りを待っていた。 ギョッ「何をしているの」 「私の顔が嫌いなのでしょ。私が醜いから愛せないのね」 ヴィオレットにはかなりの容貌コンプレックスがあります。 「外見は私には関係ないわ。仕事が...

時間はかかるけど書き続けて

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(14)〜

  時間はかかるけど書き続けて   書店の近くのカフェでヴィオレットは立ったまま電話する。 相手はボーヴォワール。 「死んでしまいたい。周りに吹聴したのに本屋に置いてないのよ」 「ガリマール(書店、発行元)に電話するわ」 「どうやって生きれば? 小さい頃からずっ...

私が変?バカにしないで!

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(13)〜

  私が変?バカにしないで!   ヴィオレットは書店にいる。 処女作「窒息」の発売日だから見に来たのだ。 いくら探してもない。 「窒息」が見当たらないけど、と女性店員に訊く。 「無名作家だと出版社は部数を抑えるのです。注文しますか?」 彼女は親切に尋ねてく...

ジュネ、ヴィオレットよ

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(12)〜

  ジュネ、ヴィオレットよ   男がひとり、ふらりと近づいてきた。 「ちょうどよかった、ジュネ、ヴィオレットよ」と ボーヴォワールが引き合わせた。 ヴィオレットは「薔薇の奇跡」を読んだばかりだ。 「シモーヌが君の本を褒めているよ」とジュネ。 午後というのに...

語りなさい、女性たちのために

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(11)〜

  語りなさい、女性たちのために   「結婚は詐欺よ」とボーヴォワール。 「大半の女性にとって奴隷状態の始まりよ。 経済的自立なしに女性の自立はないわ。まだ遠い先の話ね」 ヴィオレット「初恋は寄宿学校だった。名前はイザベル。 1年後に露見して母に引き離されてから...

中絶のことを書いて

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(10)〜

  中絶のことを書いて   ゴミゴミした酒場でヴィオレットとボーヴォワールが飲んでいる。 「中絶のことを書いて」とボーヴォワールが促す。 「窒息」の次を書けというのだ。 「別に話すことはないわ」気のなさそうにヴィオレット。 「何ヶ月だった?」 「5ヶ月半。...