エマニュエル・ドゥボス

もう一人の性体験の話は?

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(28)〜

  もう一人の性体験の話は?   書くことがないというヴィオレットにボーヴォワールが 「寄宿生時代のもう一人の性体験の話は?」 ヴィオレットが何気に話した中身を、ボーヴォワールはよく覚えています。 単に頭がいいからでしょうか、いやあ、ボーヴォワールだって ヴィオ...

私よ、心配したわ

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(27)〜

  私よ、心配したわ   雪の日、シモーヌがヴィオレットを訪ねた。 「だれ?」と重苦しい声。 「私よ、電報に返事もくれないから心配したわ。入れてくれる?」 「掃除、していないから」 「私だってしていないわ」 入室。室内を珍しそうに見回し「ここで執筆を?」 ...

大げさなんだよ!

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(26)〜

  大げさなんだよ!   劇場から出て行くヴィオレットの様子を見たジャン。 「どうしたんだ?」 「どうならいい? 劇場でも歓迎されない、本は売れない」 怒り嘆くヴィオレットに「大げさなんだよ!」と一喝。 生後7ヶ月で母親に捨てられ、15歳で感化院、18歳で外人部...

私に愛を期待しないで

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(25)〜

  私に愛を期待しないで   3ヶ月たつのにボーヴォワールは帰国しない。 ジャン・ジュネの舞台稽古を見に行くと、 誰もいない暗い客席にいるのは彼女だ。 (帰っていたのに)忿懣やる方なく近づき 「“飢えた女”が嫌いならそう言って」 振り返ったボーヴォワール。...

お前の本だけど

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(24)〜

  お前の本だけど   ヴィオレットの母ベルトが「窒息」を読んだ感想を言う。 「ウソで固めて私を怪物に仕立てた。“壁の上の女”って彼女?」 「そうよ、知っているくせに」 娘の部屋の机や壁にはボーヴォワールの写真がある。 このお母さん、とても面白い人で、 娘...

本は出来たのかい?

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(23)〜

  本は出来たのかい?   ヴィオレットはジャック・ゲランを訪ねます。 ちょうどバラの季節で彼は多忙でしたが快く招じ入れる。 「本は出来たのかい?」 「ボーヴォワールに渡したわ」ジャックはポカン。 金主にまず見せてくれるのが常識ってものだろ。 「それで?」...

書き上げたのね、飛行機で読むわ

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(22)〜

  書き上げたのね、飛行機で読むわ   案の定、ボーヴォワールは「香水のゲラン? 信用ならない。 彼が収集するのは死んだものだからよ。でも言葉は生きて動いている。 物への偏愛は病気よ」 手稿本蒐集家のゲランを病気だと断じます。 でも前金10万フランは「大歓迎ね」...

前金で10万払おう

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(21)〜

  前金で10万払おう   ジャック・ゲランの田舎の別荘で寸劇の稽古をしていた、ジュネ、ゲラン、 ヴィオレット。ジャックとヴィオレットがちょっとしたことで気まずくなり、 ヴィオレットはプイとジュネとパリに帰ろうとする。 追いかけてきたジャック、 「気まずいまま別...

まだだけど、たぶん「第二の性」

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(20)〜

  まだだけど、たぶん「第二の性」   「男は男であることで常に正しく、 女は間違っているとされてきたのよ。 今度の私の本が、どう受け止められるか。 批判には慣れているわ」 「題名は決めた?」 「まだだけど、たぶん“第二の性”よ。あなたが今書いている本は?...

頑固な人、私に見せたくないのね

〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」(19)〜

  頑固な人、私に見せたくないのね   レストランにヴィオレットとボーヴォワールがいる。 お金がないとぼやくヴィオレットに 「原稿を見せてくれたら、出版社から前金をもらうのに」 ボーヴォワール、パスタを頬張りうまそうにワインを飲む。 「自分でやり遂げたい。完成作...