頑固な人、私に見せたくないのね
レストランにヴィオレットとボーヴォワールがいる。
お金がないとぼやくヴィオレットに
「原稿を見せてくれたら、出版社から前金をもらうのに」
ボーヴォワール、パスタを頬張りうまそうにワインを飲む。
「自分でやり遂げたい。完成作を読んでちょうだい」
「頑固な人。私に見せたくないのね」
ボーヴォワールの口調がくだけてきています。
「そうよ」
「正直な答えだわ」
「あなたも自分のことを話さない」
「今は女性の研究に没頭しているの。挑んだのは高い山だった。
ある集会で、それは女の理論だと批判され、
それこそ男の理論だと言い返せなかった」
ボーヴォワールの目がきらめいてきた。
本作が興味深いのは、ヴィオレットという作家の誕生と同時に
女性研究の分水嶺となった大作「第二の性」の
誕生前夜でもあることです。
〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」〜