どきません
タキは決めた「奥さま、およしになったほうがよろしゅうございます。
板倉さんとお会いになるのはおよしになったほうが」
「お餞別をお渡しするだけよ」「それなら私が参ります」
時子はタキを押しのけようとする。
「どきません」タキは両手を広げて行く手をふさいだ。
時子の目に怒りが燃える。タキはひるまない。
「奥さまの姿を板倉さんの下宿で見かけたと酒屋のおじさんが
言っていました。このことが旦那さまや坊ちゃんに知られたら
大変なことになります。板倉さんがここに来る分には不都合ありません。
手紙をお書きくださいまし。私が届けます」
松たか子がビシャッと着物の袖を鳴らします。激しい音です。
着物を着慣れた人でないとこの所作はできません。