始まったものはいつか終わる
時子の手紙を持ってタキは板倉の下宿に向かいました。
いつまで待っても板倉はこなかった。
「その日からしばらく奥さまは精気を失いました。こうやって坂の上の
小さいおうちの恋愛事件は幕を閉じました」
戦火が激しくなり、タキは故郷に帰ることになった。
「戦争が終わって何もかも片づいて、あなたがまだお嫁に行って
いなかったら戻ってきてちょうだいね」
時子はやさしい笑顔で言った。
「戦争はいつか終わるでしょうか」
「そりゃそうよ。始まったものはいつか終わるのよ」
「それじゃ必ず戻って参りますから」「待っているわ」
荷物を背に玄関を出るタキを気遣わしげに時子は見送る。
そう、何もかもいつか終わる…このセリフには深い余韻があります。