かわいそうに…

 

かわいそうに…

 

「ダメよ、もうダメ、いけないわ、もうこれきりにしましょう」

いきなり時子はそう喋り出し睦子とタキはギョッ。

「もうこれっきりにしましょうって言って帰ってきたのよ。

いけないに決まっているじゃないの!」

「何のこと?」と睦子。

「見合い話よ。そんな意地を張るならもうけっこうです。まいりません、

そう言って帰ってきたのよ」

睦子(な〜んだ)という顔。

タキがお茶を入れて戻ってきた。「熱っ。どうしてこんなお茶入れるのよ。

入れ直して!」

八つ当たりする時子。引き下がるタキ。

タキの胸のうちを知っている睦子は「かわいそうに」

痛ましげにタキを見る。

 

(「小さいおうち」 )

 

bn_charm