シモーヌ、冷静になりたまえ
「彼女は偉大な作家よ。不当だわ。ジュネには寛大だったのに」
ボーヴォワールがガリマール出版の編集者に異議を唱える。
「シモーヌ、冷静になりたまえ。
ヴィオレットがもう少しエロティシズムを和らげ、情緒の箇所は守る、
何れにしても女学生時代の部分は削除だよ。
もう少し婉曲に書いてくれたらなあ」
「女性が率直に性を表現するのが許せないのね。汚いわ」
「サルトルは?」
「私と同じ意見よ。時代を築く作家と言っている」
「中絶の箇所は検閲を通らないよ」
「女性の性は赤裸々に語られるべきよ」
自分が書けないものをヴィオレットは書いている、
その確信があるのに男社会は認めようとしない。
腹立たしい。ボーヴォワールは歯嚙みする。
〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」〜