苦しいわね、あなたも
「女学生のとき、そりゃ綺麗だったのよ、時子さん。
みんな好きになっちゃうの。あの人のこと。
時子さんの結婚が決まったとき、自殺しかけた人もいるの。
いやだったの、あの人が結婚するのが。独占したかったのよ。
わかるでしょ。タキちゃん。苦しいわね。あなたも。
あたし、よくわかる。
こんな話、私たちがしたこと、時子さんに内緒よ」
タキは「はい」と返事する。
実に素直です。タキは時子に報いて欲しいという気は微塵もない。
ただそばにいることが幸せだった。
そこへ時子が板倉の下宿から帰ってきた。興奮しています。
タキなど目に入りません。