エイリ・ハーボー

パパはやさしい人よ

〜「テルマ」⑪〜

  パパはやさしい人よ   お酒を飲まないテルマが、講義中チラッとバッグの中のワインを見せる。 アンニャとその夜は二人だけの飲み会。 「パパが私の手をろうそくにかざした。熱かった。 地獄はいつもこうだと、パパが言った」 「冗談よね」 「ホントよ。パパはやさしい人よ」 「なん...

なぜ昨夜ここへ来たの?

〜「テルマ」⑩〜

  なぜ昨夜ここへ来たの?   アンニャはその夜、テルマの部屋に泊まりました。 テルマは隣に眠るアンニャを見つめ、背中に寄り添います。 何も起こりませんでしたけど。 朝。「なぜ昨夜はここへ来たの?」テルマが訊く。 「メール、くれたでしょ」「送ってない」「ホントだ」 アンニャが...

「テルマ!」

〜「テルマ」⑨〜

  「テルマ!」   テルマは眠りに入ります。 アンニャと踊っている夢を見た。 ベッドの端に、黒い欲望の蛇がちょろちょろと見え隠れする。 起きて窓辺に立つと、街灯の下にアンニャがいる。 走っていく。光がチカチカして痙攣が起きた。 「テルマ!」アンニャの叫ぶ声を聞いた。 アン...

ケータイの仕組みを説明できる?

〜「テルマ」⑧〜

  ケータイの仕組みを説明できる?   学生同士の飲み会に行きました。 コーラしか飲まないテルマを男子がからかうと 「ケータイの仕組みを説明できる?」 彼がうろたえているのを、慎ましく微笑んで眺める。 人をやっつけたり、バカ笑いしたりしないのです。 アンニャはそんなテルマを黙...

時々自分が人より優位に思える

〜「テルマ」⑦〜

  時々自分が人より優位に思える   「私、どうかしているわ」テルマは父に悩みを打ち明けます。 「時々自分が人より優位に思える、間違った考え方を止められなくて」 「よく話してくれた」と父は受け止め「他には?」 「友達や彼氏といる女の子を見てもべつに可愛くないし。 その子らが話し...

わずかな知識で偉ぶるな

〜「テルマ」⑥〜

  わずかな知識で偉ぶるな   両親が娘の荷物を持って寮に来ました。 母親は車椅子です。 夕食を一緒にとる。 「マルテ一家は地球誕生が6000年前だと信じているのよ」 楽しそうに話すテルマに「もうやめろ」ピシャッと父。 「他人をあざけるな。そういう態度は嫌いだ。 わずかな知...

また数学で会えるわね

〜「テルマ」⑤〜

  また数学で会えるわね   「また数学で会えるわね」 アンニャはあっさりした挨拶を残してプールを出て行った。 テルマはこれまで、友達らしい友達がいませんでした。 両親の監視が厳しかったのです。 いつも、どこからか自分を見張っている視線を感じて育った。 その圧迫感に比べ、アン...

あなたと話がしたくて

〜「テルマ」④〜

  あなたと話がしたくて   大学のプールでテルマが泳いでいる。アンニャが来る。黒い水着。 「あなたと話がしたくて」率直に言う。 「あの発作が起きた時、隣にいたのよ。私はアンニャ」 「テルマ」 「体調はよくなった?」 専攻は、アンニャは化学、テルマは生物学。どっちもリケジョで...

大丈夫?

〜「テルマ」③〜

  大丈夫?   テルマは図書館で発作を起こします。 急に手が震え、ついで全身が痙攣し倒れた。 隣の席にいて驚いた学生がアンニャです。すぐ救急車を手配し、 気がついたテルマに「大丈夫?」と声をかける。 その夜テルマは黒い蛇が体を這う夢を見る。 のちのシーンで蛇は何度かテルマの...

テルマ、何か問題あったの?

〜「テルマ」➁〜

  テルマ、何か問題あったの?   テルマのケータイに母親から入る。 「テルマ、何か問題あったの? 電話に出ないから」 「講義中だったから」「なんの講義?」 「生物学」「生物学は火曜の朝8時半からじゃなかった?」 箸の転んだことまで母親は知りたがる。 「今、料理中だから」と答...