もう一度書くのよ!
ガリマール出版社から月々振り込まれる手当は
ボーヴォワール個人のお金だとわかった。
「あなたでしょ! 帰るわ!」
プイと飛び出したヴィオレットをボーヴォワールが追いかけた。
セーヌ河岸を並んで歩く。
「嫉妬、焦燥、不幸、全部あなたのせい。
あなたに才能があると言われあなたを信じた。
あげくが精神病院行き、未来もない、私の人生から出てって!」
「求めたのはあなた、変えるのもあなたよ」
「できない!」
「書くのよ。それが人生を変える。涙も叫びも無意味、書くしかない」
「もう空っぽよ」
「もう一度書くの。出生から」
「それで?」
「すべてが変わる。あなたの視点が変わったから」
ボーヴォワールは預言者のごとく断言する。
彼女の言葉にためらいや疑念があったためしがありません。
〜「ヴィオレット〜ある作家の肖像〜」〜