タキちゃんと呼ぶわね
昭和10年の春、18歳のタキは山形の田舎から東京へ奉公に出て、
平井家に来ます。東京郊外にあり、建てられたばかりの、
赤い瓦の三角屋根のあるモダンな、小さい家。
タキが仕えることになる時子は「あなたをタキちゃんと呼ぶわね」と
やさしく迎えます。
タキの60年に及ぶ密かな愛情物語です。
ハリウッド的なラブシーンもベッドシーンも皆無、
わずかに短いセリフと数分のシーンで、タキの心情が語られるだけ。
うっかりすると何が言いたいのかわかりません。
山田洋次監督は、この叙情的な映画の背骨が日本美学の伝統、
「秘すれば花」にあることに徹しています。
若いタキの黒木華、老年のタキの倍賞千恵子が出色、
平井時子の松たか子が、破滅の淵にいる女の妖しさを醸して好演です。