監督 セリーヌ・シアマ

だから私を見ていた

〜「燃ゆる女の肖像」(19)〜

  だから私を見ていた   「海に入ります」 エロイーズはブスッといい、さっさと服を脱ぐ。 冬のブルターニュの海です。波の間に浮かんだり沈んだりしていたが、 歯をガチガチ鳴らして上がってきた。 「泳げました?」とマリアンヌ。 「わかりません。どう見えました...

エロイーズ、お話があります

〜「燃ゆる女の肖像」(18)〜

  エロイーズ、お話があります   「エロイーズ、お話があります」 海辺の散歩でいつものように波打ち際に腰を下ろし マリアンヌが話しかけた。 初めて「エロイーズ」というお嬢さまの名前がわかります。 「私はあなたを描きにきました。ゆうべ完成しました」 エロイ...

でも寂しかった、明日は一緒に

〜「燃ゆる女の肖像」(16)〜

  でも寂しかった、明日は一緒に   お嬢さまを外出させてマリアンヌは懸案の肖像画を進めた。 1着しかない緑色のドレスで描く。 部分的に書き溜めたスケッチから描き起こす。 お嬢さまが外出から帰ってきた。機嫌良さそうだ。 「一人は確かに自由でした。でも寂しかった。...

続きは音楽の都ミラノで

〜「燃ゆる女の肖像」(15)〜

  続きは音楽の都ミラノで   曲はビヴァルディの四季の「夏」だった。 お嬢さまは興味深そうに、マリアンヌの弾く傍に腰掛け鍵盤を見る。 「嵐が近づきます、虫たちが騒ぎ出す、稲妻と暴風… 音が拾えない。続きは音楽の都ミラノで」 嫁ぐ先のミラノは「魅力的な街」だとい...

一人なら自由?

〜「燃ゆる女の肖像」(14)〜

  一人なら自由?   「明日は一人で外出できます。自由です」そうマリアンヌが告げる。 「一人なら自由?」お嬢さまが聞き返し「確かめます」 このお嬢さま、マリアンヌが考えているより、 ずっと思慮深いと思えるのです。一人なら自由なのかと、問うあたり。 でも嬉しかっ...

お嬢さまは怒っているだけです

〜「燃ゆる女の肖像」(13)〜

  お嬢さまは怒っているだけです   肖像画が進まない。外にいる時間が長すぎる。 そうマリアンヌから聞いて伯爵夫人は娘を外に連れ出すことにした。 「その間に描いて」 「お一人で外出させれば? お嬢さまは怒っているだけです」 思うに任せない日常の行動に腹を立ててい...

選べる人にはわかりません

〜「燃ゆる女の肖像」(12)〜

  選べる人にはわかりません   お嬢さまのやや不機嫌な問い返しに、マリアンヌは話題を変えます。 「修道院はお好き?」 「修道院には音楽も図書館もありました。それに皆が平等です」 「私は息苦しくて逃げ出しました。 ノートに絵を描いては怒られた」 「絵を描く...