だから私を見ていた
「海に入ります」
エロイーズはブスッといい、さっさと服を脱ぐ。
冬のブルターニュの海です。波の間に浮かんだり沈んだりしていたが、
歯をガチガチ鳴らして上がってきた。
「泳げました?」とマリアンヌ。
「わかりません。どう見えました?」
「浮いていました」
館に戻りましょうというマリアンヌにイヤイヤと首を振り
「だから私を見ていたのね」
(ふん、絵を描くためだったのか)っていう感じ。
何も目的がなく、ただ見ていてくれていたと思ったのに。
エロイーズの声には怒りと落胆が混じっています。
〜「燃ゆる女の肖像」〜