ひとりで泳げば?
シャーロットがメアリーの後ろを歩く。荒波が打ち寄せる浜辺だ。
足取りは重く、屠殺場に引かれていく仔牛みたいだ。
メアリーが掘りかえす岩の目星をつけている。
「あれは?」後ろで声がする。
シャーロットにも気のついた岩があったらしい。
「たいしたものじゃない」メアリーは歯牙にかけない。
「掘り出せば? 仕事でしょ。私に採集の現場を見せると」
上から目線である。メアリー、プッツン。
「言っとくけど、迷惑なの。お金をもらったから連れてきただけよ。
私の仕事に口出ししないで」
シャーロット、気丈に言い返す。
「病気を治したいのよ。お散歩や水泳で。労働じゃない」
メアリー(なんだと)って感じで
「水泳なら私にかまっていないで、ひとりで泳げば?」
「夫は?」
「逃げたわ」。言い捨てたものです。
シャーロット、細い肩を怒らせ、憤然と去る。
その後ろ姿に「病気のようには見えないけど」とメアリー。
〜「アンモナイトの目覚め」〜