もう1台、車を見つけて

もう1台、車を見つけて

 

セルビーを掌中の玉のごとく大切にするアイリーンに比べ、セルビーの愛が

同質であったとは思えない。

「これだけの荷物、車じゃないと運べない。もう1台、車を見つけて!」

殺人のあと、心身ともクタクタになって帰ってきたアイリーンに

叫ぶように言い続ける。

「約束通りにして。あなたが決めたことを。ビーチの家で暮らすのも、

あなたが言い出した」

相手の言葉尻を捉え、自分の要求を肩代わりさせるのがうまい。

セルビーにはアイリーンが自分のいうことを聞いて当然という意識が

ありました。身を売ってお金を稼いでくるのも当然、

車を手に入れるのも当然、何となれば私を愛しているのだから。

アイリーンが自分を愛するのは自分にその価値があるからだと、

完全に勘違いしている。こういう人、いますね。

愛は愛の対象の中にあるものではなく、愛する人の中にある、

それがわからないヒト。

 

(「モンスター」)

 

 

bn_charm