どうでも…
ヴァルの指摘は新しいヘレナ像の突破口でした。
マリアはハッとする。
「なぜこの作品の意味は逆にも取れると思うの?」
おとなしく訊く。
「この脚本は物体のようなものよ。立場によって見方が変わる」
「どうかしら」マリアはわざと気のない返事。
「蛇を見なくちゃ」ヴァルは滅多に見ることができない
「マローヤの蛇」を見たがる。
マリアが冷水をかける。「蛇なんかいない」
いつまでも自分を受け入れようとしないマリアに、
今度こそヴェルは絶望します。
「どうでも」つぶやくような独り言でした。
マリアには聞こえなかったかもしれません。
疾走する雲海のような「マローヤの蛇」が
風に乗って谷を昇ってきた。
マリアはヴァルを呼びますが、ヴァルは現れません。
ヴァルは姿を消したのです、まるでヘレナのように。