門脇麦

いつの間にか心が平らになる

〜彼らが本気で編むときは、⑯〜

いつの間にか心が平らになる   リンコがトモに「何があっても何を言われても、飲み込んで踏ん張って、 我慢して怒りが通り過ぎるのを待つの」 「通り過ぎないときは?」 「私はこれで」とリンコは編み物を取り上げ 「ちくしょう、ちくしょうって、一目、一目、編んだらいつの間にか 心が平らになる」 ...
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ああいう種類の人

〜彼らが本気で編むときは、⑮〜

ああいう種類の人   スーパーで買い物をするリンコとトモをカイの母親が見かけた。 リンコと離れたトモに近づき 「私はあなたの味方よ。あなたは一人じゃないのよ。ああいう種類の人と あんまり一緒にいないほうが、ね」 熱を込めて言う。トモは彼女を突き飛ばし持っていた洗剤をふりかける。 スーパー...

しじみの醤油漬けと切り干し大根

〜彼らが本気で編むときは、⑭〜

しじみの醤油漬けと切り干し大根   リンコが約束を守りました。 トモが好きだと言った居酒屋メニューのお弁当を持ってお花見に。 川の土手に3人並んで座り、まあ、綺麗なお弁当。 風景を雄弁な脇役にするのが荻上映画ですが、このシーンは特筆モノです。 いいなあ、こんな家族。 幸せって、他のことが...

ねえ、オッパイ触ってみたい

〜彼らが本気で編むときは、⑬〜

ねえ、オッパイ触ってみたい   トモがリンコに垣根を感じなくなりました。 「ねえ、オッパイ触ってみたい」 「いいよ。本物よりちょっと固いらしいよ…どう?」 「う〜ん、固めかも。でもちょっと気持ちいい」 ほのぼのすぎて笑っちゃう。さわる、におう… 感じることに言葉はいらない。荻上監督、五感...

男とか女とかどうでもよくなる

〜彼らが本気で編むときは、⑫〜

男とか女とかどうでもよくなる   「母さんは姉ちゃんにきびしかった」とマキオ。 「嫌いだったの?」とトモ。 「親子でも人対人なんだ。どうしても気が合わないってことはあるんだよ。 それはキライということじゃないと思う。僕だって母親の愛情が重たくてどうしたら家を出られるか、 そればかり考えてい...

親子でも人対人なんだ

〜彼らが本気で編むときは、⑪〜

親子でも人対人なんだ   「母さんは姉ちゃんにきびしかった」とマキオ。 「嫌いだったの?」とトモ。 「親子でも人対人なんだ。どうしても気が合わないってことはあるんだよ。 それはキライということじゃないと思う。僕だって母親の愛情が重たくてどうしたら家を出られるか、 そればかり考えていたよ」 ...

つけてみて

〜彼らが本気で編むときは、⑩〜

つけてみて   母親が毛糸で作ってくれた「ニセチチ」が出来上がった。 「つけてみて」 リンは学生服を脱ぎ、嬉々としてブラジャーをする。 フミコはちょこちょこ手直しをしながら「これ、入れてみて」 ブラジャーの中に詰め物をする。 「本物は無理だけど、とりあえずニセチチで、と」 ブラジャーを...

お母さん、オッパイがほしいの

〜彼らが本気で編むときは、⑨〜

お母さん、オッパイがほしいの   回想場面です。 中学生の制服を着たリンが 「お母さん、オッパイがほしいの」と母親に訴える。 フミコ、驚かず「そうだよね。リンちゃん、女の子だものね」 自分のセクシュアリティを持て余し、さめざめと泣く息子に 「泣かなくていいの。何も悪くないのだから」 い...
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最初のオッパイは私が作ったの

〜彼らが本気で編むときは、⑧〜

最初のオッパイは私が作ったの   リンコの母フミコとトモの対面。 フミコは一人息子のトランスという宿命を厳粛に受け止めている。 世間からどんな目で見られるかも知っている。だから常に臨戦態勢だ。 強く、やさしい母親である。なんでもズケズケ言う。 「あの子の最初のオッパイは私が作ったの。 た...

ボクはどうなっちゃうんだろう

〜彼らが本気で編むときは、⑦〜

ボクはどうなっちゃうんだろう   トモの同級生、男子のカイは、男の子が好きだ。 教室の窓から校庭を見ながらトモに話しかける。 「赤いシャツの人、いるでしょ。彼のことを考えるとこのへんが もやもやするんだ。ボクはどうなっちゃうんだろう」 カイの不安に対して、トモは軽はずみな対応をしていません...