ドラグ・クイーン

クズって味わい深いものよ

〜キンキーブーツ㉒〜

クズって味わい深いものよ   ローラの姿が見えない。チャーリーは探し回り、薄暗いクズ置き場に しゃがみこんでいる彼を見つけた。 いぶかしむチャーリーに 「ここ、和むの。クズって意外と味わい深いものよ。はみ出し者も、 みんな友だち」 工場のどこにもローラの居場所はない。露骨な差別の目で見ら...

援護して。突入よ

〜キンキーブーツ㉑〜

援護して。突入よ   目的は決まった。どこにもないキンキーブーツで市場を席巻するのだ。 ベテランのメルがミシンを踏んだ。 「みんな、援護して。突入よ」 やがてベルトコンベアの上にただ一足、真っ赤な高さ75センチのブーツが しずしずと進んできた。しなやかな革、滑らかに滑るジッパー、 象でも...

私たち堂々と振るまわなきゃ

〜キンキーブーツ⑳〜

私たち堂々と振るまわなきゃ   「みんなに溶け込み、目立つな。結局そういうことね」 チャーリーの慰めにローラは自嘲します。 子供の頃、女装して父親から勘当されたことを打ち明け、 「巨漢の黒人ボクサーなら有望株ってわけ。でも巨漢の黒人が ドレスを着ると疎ましさしかない」 「でも私たち、堂々...

男用と女用はな

〜キンキーブーツ⑲〜

男用と女用はな   ドンは顧問として帰ってきたローラを見て「ペッ」唾を吐きます。 「前世紀。紳士靴を作ってきた会社が、今世紀手がけるのが 紳士の靴だ。特殊なね」とチャーリー社長は方向転換を表明した。 職人たちの作業場。「トイレある」とローラが訊いた。 「男用と女用はな」とドン。どこまでも意...

5週間だけでいい

〜キンキーブーツ⑱〜

5週間だけでいい   ローラにアドバイザーになってもらえないだろうか。 「僕は4代続いた靴工場を救いたいんだ」 「関係ないわ」 「5週間だけでいい。ミラノの見本市に出品できなきゃここは売却だ」 ローラは耳をかすふうもなく、工場を出ます。 でもタクシーに告げた行き先はロンドンではなくミラノ...

セックスはヒールにありよ

〜キンキーブーツ⑰〜

セックスはヒールにありよ   「ここは田舎なんだ、ロンドンとは違うんだ」 折り合いをつけようとするチャーリーにローラはきっぱり 「ヒールを直して。セックスはヒールにありよ」 ヒールとはお尻が筋肉の緊張で魅力的になり性欲を促す、らしいです。 ローラは妥協しない。 チャーリーはベテラン社員た...
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このオレだってイヤだぜ

〜キンキーブーツ⑯〜

このオレだってイヤだぜ   意地悪な嫌味ばかり言う男のそばにいったローラは、 ズシッ、ドンの膝に座り、耳元に口を近づける。 みな固唾を飲んでみています。 ドンだけに聞こえる、低いドスの効いた声で 「女が履きたくない靴は、このオレだってイヤだぜ」 一瞬見せた男の迫力。ドンはうろたえモノが言...

そのヒール最低よ!

〜キンキーブーツ⑮〜

そのヒール最低よ!   ローラの結論。「そのヒール、最低よ!」 チャーリー「でも壊れない」 火に油を注ぐようなものでした。ローラは声を張り上げ 「作業靴なんか、イヤなの。ニッチ市場に敬意を払って。女性に聞くわ」 ローラは取り巻いている工場の女子社員たちに 「外出のとき、この靴、履く?」 ...

赤でしょ、赤だわよ、赤なの!

〜キンキーブーツ⑭〜

赤でしょ、赤だわよ、赤なの!   「赤でしょ、赤だわよ、赤なの!」ローラは絶叫する。 「第一のルール、赤こそセックスの色。暗い色はダメ、恐怖と危険の赤。 そして立ち入り禁止って表示の色よ」 悲しいかな、チャーリーはローラのセクシュアリティに理解がなかった。 彼女らは女装した男性の、アブノー...

おお、神さま!

〜キンキーブーツ⑬〜

おお、神さま!   ローラは目を見開き 「おお、神さま。私がこんなもの、望むわけがありません」 チャーリーは耳を疑った。ローラは絶望を通り越し 怒り心頭に発しているのだ。 商品の送り手は物を作ればいいってものじゃないのですね。 チャーリーは腕のいい職人だったかもしれないが、 そしてきっ...