ダニエル・クレイグ

君は立派だよ。みんな言ってる

〜「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」⑱〜

君は立派だよ。みんな言ってる ベイコンの評判をジョージも耳にすることがある。邪悪で凶暴な、偉大なアーティストだとも聞く。ベイコンはバーの客たちの前でジョージを馬鹿にするし、からかうし、まともに扱わないのに、ジョージはベイコンにこういうのです。「世間は君のことを邪悪な世界の住人だと言っている。でも、君は立派だよ...

君に会う前は俺にも人生があった

〜「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」⑰〜

君に会う前は俺にも人生があった ジョージが声を出して新聞を読む。交通事故や、占い、天気予報、日々のニュースだ。刑務所を出たり入ったりしていたジョージは、学校も出ておらず本を読みなれていない。黙読がなかなかできないのだ。 邪魔になるような大声とは違う。普通の話し声で、自分に聞かせるように読んでいるだけ。かわいい...

寝ているときさえ嫌なやつだ

〜「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」⑯〜

寝ているときさえ嫌なやつだ とうとうベイコンは隣で眠っているジョージの顔を見ながらこうつぶやく。「寝ているときさえ嫌なやつだ」ベイコンとは薄情な上に傲慢な男でして、ベイコンの名声に憧れた 若い画家が、絵を見てくれと自作を持ってきました。ベイコンは「君の絵を見る必要はない。君のネクタイが才能のなさを表している」...

フランシス、開けてくれ!

〜「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」⑮〜

フランシス、開けてくれ! 酔いつぶれたジョージをバーに放ったらかしにして、ベイコンは男を家に連れ込んでいる。目を覚ましたジョージはとっくに看板になった店を追い出され、帰ってきたが玄関はしまったまま。雨に打たれずぶ濡れだ。「お願いだ、フランシス、開けてくれ」ガンガン、ドアを叩いてジョージは哀願する。ベッドにいる...

死の虚空なのだ

〜「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」⑭〜

死の虚空なのだ ジョージとの関係は最悪に陥る。ベイコンは穏やかな関係を維持する能力が、自分に欠落していることがわかっている。孤独はむしろ創作に必要な環境だ。ジョージはちがう。安らぎやなぐさめや、和やかな関係の中で一緒に生きていきたい。ベイコンはジョージがうとましくなる。「耽美には儚さが伴う。彼のほうけた顔に広...

関係を維持する能力の欠落

〜「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」⑬〜

関係を維持する能力の欠落 ベイコンと気持ちが通い合わなくなって、ジョージは悪夢に悩まされるようになる。毎夜のようにうめく。ベイコンは思う。「関係を維持する能力の欠落。情熱を吸い尽くす創作は、心をおびやかす。優しさは絵筆を通してしか表せないのか。それすらわからない。本能で伸ばす手。背骨の曲線に沿って走らせる指先...

わたしの彼女が最高に上手なの

〜「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」⑫〜

わたしの彼女が最高に上手なの テーブルを囲んだ顔なじみたちが、牡蠣やロブスタをむしりながら喋っている。レモンを絞った牡蠣の汁をチュチュッとすする音があちこちで。バーの女将のティルダ・スウィントンが何気に「わたしはオラルのみよ。わたしの彼女が最高に上手なの」「ちょっと」と誰かが制し「シーフードがだいなしよ!」ホ...

相手の男の快楽のためにのみ

〜「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」⑪〜

相手の男の快楽のためにのみ存在する 「相手のためにひたすら尽くすのはカタルシスだ。すべての責任を放棄し、命令で動き、自ら決断することは何もない。相手の男の快楽のためにのみ、存在するのだ」ここでいう相手とはベイコン自身のこと、つまり、ジョージはベイコンの快楽のためにひたすら尽くす、ベイコンの命令で動き、自ら決断...

秘密の部屋

〜「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」⑩〜

秘密の部屋 「快楽の館に足を踏み入れたわたしは、世間並みの愛を交わす部屋にはとどまらず、秘密の部屋に入っていき横たわった。口にすることさえ恥とされる秘密の部屋。わたしはそんな恥とは無縁だ。そうでなくてだれがアーティストになれよう」ベイコンの芸術家としての自負がみなぎっています。でも、ちょっと大げさな気がするけ...

ジョージは特別だ

〜「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」⑨〜

ジョージは特別だ いくら20世紀最大の画家だとしても、どうにも好きになれないのがフランシス・ベイコンでした。肉塊、恐怖、苦痛、歪みに歪んだ肖像、どの絵も快適さを拒否し、もし部屋にかけておけば悪夢になりそうな絵ばかりです。ベイコンはきっと複雑きわまりない人物だったのでしょう。そんな彼がジョージをこういいます。「...