君に会う前は俺にも人生があった

君に会う前は俺にも人生があった

 

ジョージが声を出して新聞を読む。交通事故や、

占い、天気予報、日々のニュースだ。

刑務所を出たり入ったりしていたジョージは、学校も出ておらず

本を読みなれていない。黙読がなかなかできないのだ。 

邪魔になるような大声とは違う。普通の話し声で、自分に聞かせる

ように読んでいるだけ。かわいいとさえ思える無邪気な姿だ。

ベイコンは邪険にいう。

「黙っていてくれ、君がいるだけでむさ苦しいのに」

ジョージは言い返す。

「いいよ、出て行くよ。俺にだって用がある。俺を待っている

友だちがいる。君に会う前は俺にも人生があった」

応えるセリフだわ。応えないのはベイコンだけね。

 

(「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」)

 

 

bn_charm