Vol.8 人権と愛と年越し

 

 ハードカバーが苦手なので文庫になるまで待つ派の衛澤です御機嫌よう。文庫にならなかったら泣きます。

 2016年も残すところ僅かとなりました。やり残したことはございませんか。今年の汚れ、今年のうちに。今年の仕事も今年のうちに。悔いのないようにお願い致します。
 ま、今年と来年は地続きなんですけどね、昨日と今日のように。
 さて、12月に入りますとみなさんクリスマスや年越しのことで頭がいっぱいになったりするかと思いますが、その前に大事な期間がありますよ。
 12月4日から12月10日までの1週間は、人権週間であります。毎年ですよ。今年だけじゃありませんよ。
「人権のことなんて普段は考えないなあ」という人もおられるかもしれません。左様な人は、与えられるべき・享受すべき権利を当然に得ている人でありましょう。それは当たり前であり、大変恵まれたことでもあります。

 平成28年第68回人権週間の強調事項として、次の17の項目が法務省によって挙げられております。

(1) 女性の人権を守ろう
(2) 子どもの人権を守ろう
(3) 高齢者の人権を守ろう
(4) 障害を理由とする偏見や差別をなくそう
(5) 同和問題に関する偏見や差別をなくそう
(6) アイヌの人々に対する理解を深めよう
(7) 外国人の人権を尊重しよう
(8) HIV感染者やハンセン病患者等に対する偏見や差別をなくそう
(9) 刑を終えて出所した人に対する偏見や差別をなくそう
(10) 犯罪被害者とその家族の人権に配慮しよう
(11) インターネットを悪用した人権侵害をなくそう
(12) 北朝鮮当局による人権侵害問題に対する認識を深めよう
(13) ホームレスに対する偏見や差別をなくそう
(14) 性的指向を理由とする偏見や差別をなくそう
(15) 性同一性障害を理由とする偏見や差別をなくそう
(16) 人身取引をなくそう
(17) 東日本大震災に起因する偏見や差別をなくそう

 上記の如く強調されている人たちというのは、与えられるべき・享受するべき権利が他者によって奪われている人たちです。常に人権のことを考えざるを得ない人たちです。だから侵してはならぬと殊更に強調されるのであります。
 世界人権宣言第一条に「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない」と謳われている通り、人権とは本来生まれながらにして平等に享受し得るものです。それが他者に奪われるということは、言うまでもなく不当なことであります。

 しかし奪っている人たちは、それに無自覚であることがとても多い。奪っているということにも、それが不当な行為であるということにも、無自覚です。

 本稿をお読みのあなたは、他者の人権を奪ってはいませんか。侵してはいませんか。そのつもりはなくても、「まさかこんなことが」と思うことが誰かから大事なものを強奪している可能性があります。

「ホモって気持ち悪いよね」
「トランスジェンダーとか、特殊な生きものじゃん」

 そういった、雑談の中の何気ない一ト言が偶然近くにいた誰かの生命力や安寧な生活を奪ってしまうことも往々にしてあります。勿論これはセクシュアリティに関することだけではなく、ほかのどんなことについてもです。私に近しいことでたとえてみますと、

「うつ病なんて病気じゃない。甘えてるだけ」
「精神病患者なんてまともに働けないんだから生きてるだけ無駄」

 などという偏見に満ちた会話の断片を街なかで耳に拾ってしまい、帰宅後に動けなくなってしまう、という経験があります。
 いま一度立ち返って、人権について考えてみましょう。普段、人権について考えることがない人も、年に一度の人権週間には考えてみましょう。人権の問題に無関係の人などいないのですから。

 私などは精神障碍者であり性同一性障害者であり同性愛者であるので、現時点において当人として人権週間強調事項の3項目に該当しております。
 そして生まれたときは(生物学上及び法律上は)女性であったし、かつては子供でした。
 親が既に高齢者でありますし、自分もそう遠くない未来に高齢者になります。
 同和地区の近隣で生活しております。
 HIVに決して無縁ではございません。
 いつもインターネットを利用しております。
 いつホームレスになるか判らないし、いつか何者かに何らかの理由で何らかの手段で売買されるかもしれません。
 私の亡父はおそらく犯罪加害者だったし、つい最近、別の親族も新たに犯罪加害者になりましたから、被害者とその家族についても考えざるを得ません。
 勿論、このほかの問題だってまったく私に関係がない訳ではありません。
 私の例は少し極端かもしれませんが、誰しもがどの問題にも何らかの関係があるはずなのです。誰かの・何処かの問題ではなく、いまここにいる自分のこととして捉えてみましょう。

 人権週間前後には人権に関する催しが各地で開かれますが、私の地元和歌山市でも11月には和歌山県人権啓発センター主催「ふれあい人権フェスタ2016」が開かれました。私が関わっているセクシュアルマイノリティの自助グループも参加させて頂きました。
 例年、和歌山ビッグホエールという鯨のかたちをした多目的ホールに県内のNPO団体が百数十も集まります。今年は何と170を越える団体が集結。私どもはここでセクシュアルマイノリティに関する資料やパネルを展示したり、ペットボトルを加工してつくるレインボーリングの製作を実演したり、セクシュアリティに関する相談を受け付けたりしました。

 また、巷には「セクシュアルマイノリティは人口の5%いるとか言うけど、見たことも会ったこともない」なんて仰る人も多いので、セクシュアルマイノリティの生体展示も例年やっております。簡単に言うと私がブースにすわってるのですが、実際にブースを訪れて、私を見て、私と話して、私に触れて、セクシュアルマイノリティの「実在を実感」して頂きたいと考えております。性別適合手術のおっきな術創も見られるよ(ご希望であれば)! 大きな傷痕があるだけでフツーの人間なんですけどね。
 今年はもう終了しましたが、「ふれあい人権フェスタ」は多分来年も開催されて私どもも参加すると思いますので、そのときにはぜひおいでください。

 それから、12月には引き続いて同じく和歌山県人権啓発センターが人権企画展を開催します。テーマはセクシュアルマイノリティ。タイトルは「世界はColorful セクシュアルマイノリティ」です。セクシュアルマイノリティについて解説したりデータをまとめたパネルの展示、関連DVD上映、セクシュアルマイノリティに関する書籍の紹介などがあります。
 実は私、この催しの展示内容に幾らか口だ……協力させて頂いております。既に内容を知っているが故にご来場をおすすめ申し上げます。これまでセクシュアルマイノリティの智識に触れたことがなかった人にも判りよいように、展示パネルの内容は親切に明快にまとめられております。はじめての人も安心。パネルで得た智識を補完・増強できる愉しい読みものの紹介などもあり、更には普段見る機会も少ない法務省制作のDVDなんて見ることができて、まあ何てお得!

 地元にお住まいのみなさんは勿論、この時期、近県においでの方もちょいと足を伸ばして、ぜひお立ち寄りくださいませ。見て読んで知って頂きとう存じます。運次第では私と遭遇するかもしれません。
 場所は和歌山ビッグ愛2階の和歌山県人権啓発センター研修室(和歌山市手平2-1-2)、開催は12月1日午前9時30分〜12月22日午後5時、入場無料です。タダでいろいろ知ることができるなんて、まあ何て(以下略)。何度行っても無料ですから、1週間に10日行くといいと思います。

 人権について考え、互いの「違い」を「認め合い」、「同胞の精神をもって」クリスマスなる親愛の行事に臨み、暖かく新年をお迎えください。
 どなたさまにも等しく安らぎと加護と温かくておいしいものがありますように。

 

Vol.1 はじめまして!

Vol.2 今回はちょっと長めに「わかやま愛ダホ!」

VOL.3 子宮の中の……?

VOL.4 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(1)

VOL.5 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(2)

VOL.6 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(3)

VOL.7 話しに参ります 

——————————————

■衛澤 創(えざわ・そう)
和歌山市出身。文筆家。随筆・小説を主に書くが特に分野にはこだわらず頼まれたものを書く。
性同一性障碍者。足掛け15年かかって性別適合手術をすべて終え、その一方で性的少数者の自助グループに関わって相談業務などを行う。
性同一性障碍であると同時にゲイでもあり、「三条裕」名義でゲイ小説を書くこともある。
個人サイトに性別適合手術の経験談を掲載しているので、興味がある方はどうぞ(メニューの「記録」から)。
個人サイト「オフィス・エス」http://officees.webcrow.jp/