満潮です、渡れません!
ベルナデットがホテルから戻ると、追いかけてきたクラリスが
電話ボックスにいた。ホテルに電話している。
「もうチェックアウトを?」
ボックスを出てベルナデットに気づき「あの手紙を届けたの?」
「すみません」クラリスはベルナデットを引き摺り下ろし
車に飛び乗った。
「若奥さま、もう満潮になります。渡れません。行ってはダメです!」
クラリスは耳もかさず車を海に乗り入れた。
ここからがこの映画の本当の悲劇だと思えます。
クラリスはジーンがチェックアウトしたのを知っていた。
ホテルに行っても彼女はいないのにどうして追いかけた?
ジーンの深い絶望がクラリスにはわかったからだ。
嘆きとか悲しみを感じることもできない喪失だった。
ジーンの絶望と喪失を共にするためにクラリスの悲しみは疾走する。
もう一つの悲劇はクラリスが自分を追って海に入ったことを
ジーンは知りようもなかったことだ。
もしかして、ひょっとして…どうしても諦めきれず、
30年、窓の下を見ずにおれなかったことだ。
〜「ミモザの島に消えた母」〜