■理髪店の謎
10年ほど前は仕事の間中がぶがぶ飲んでいたコーヒーを何故かほとんど飲まなくなった衛澤です御機嫌よう。
みなさん、定期的に頭髪を整えるために理髪店なり美容院なりにお出掛けかと思いますが、インターネットをご利用のお若い方などは性別に関わらず美容院をご利用の方が多いのでしょうか。
前回は髪の話題を取り上げまして、類似した話題が続いてしまって申し訳ないのですが、今回は理髪店のお話です。
私が幼い頃は子供と男性は理髪店に行き、女性は美容院へ行くもの、と相場が決まっておりました。そういう時代だったのです。しかし、私は女児として生まれながらこれまでずっと理髪店を利用しています。
いわゆる「娘さん」だった時期に、うちの母親がちょっと心配したようで「たまには娘さんらしくパーマでもかけてきたら?」と費用をくれたことがありましたので、一度だけ美容院に行ってカット&パーマをして貰ったことがありました。
しかしその仕上がりは、まるで初代林家三平さんのようでございました。
一応仕上がりを「美容院に行ってきましたよ」という報告として母に見せたのですが、それ以来、女性的な装い云々は一切誰にも言われなくなりました。
そののち、男性として生活するようになり、理髪店にも男性として通うようになりました。現在の髪型である裾5厘のスポーツ刈りは女性時代のおしまいからだったのですが、そのときは馴染みの理髪店で「髪型を変える」という体で調髪して貰っていました。女性としてスポーツ刈りにして貰っていたということです。
のちに転居を機会として別の理髪店を利用するようになり、そうするとそこでは男性として扱って貰えるようになったのです。
そこで体験した変化があります。理髪店で同じ髪型にして貰う同じサービスを受けても、異なる部分があるのです。
ひとつは、顔剃り(髭剃り)が無料になります。調髪の料金のみで顔剃りまでして貰えます。女性時代は顔剃りは別料金でした。私は調髪1500円のお安い理髪店を利用していましたが、女性の場合はさらに顔剃り料金300円が徴収されるのでした。
もうひとつ、女性だったときとは違うことがあります。顔剃りの際に「眉毛の下、どうしますか?」と訊ねられるのです。
眉の下?
何故そんなことを訊く?
剃ると剃らないとで大きな違いでもあるのか?
何故男性だけがそれを訊かれる?
何故女性には訊かない?
はじめて訊かれたときにはどう答えていいのかすら判りませんでした。これは「剃る」か「残す」もしくは「剃らない」かで回答します。これを問われるようになって20年が経ちますが、いまだに眉の下を剃ると剃らないとでどのような違いがあるのか、知りません。
理髪師さんに訊ねればおそらく答えてくれるのでしょうが、現在お世話になっている理髪店ももう10年も通っていますし、いまさらそんなことを訊ねるのもな……という気恥ずかしさもあり、訊ねられないでいるのです。
だから、眉の下を剃る・剃らないの違いがあまり判らないままに「剃って」とか「剃らないで」とか、そのときどきでテキトーに答えてしまっています。
同一の人物が同じサービスを受けていても男性であるか女性であるかで変わる部分がある、というお話でした。小さな例ですが、こういった例が実はひとつだけではなかったりするのです。世の中おもしろいですね。
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VOL.4 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(1)
VOL.5 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(2)
VOL.6 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(3)
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■衛澤 創(えざわ・そう)
和歌山市出身。文筆家。随筆・小説を主に書くが特に分野にはこだわらず頼まれたものを書く。
性同一性障碍者。足掛け15年かかって性別適合手術をすべて終え、その一方で性的少数者の自助グループに関わって相談業務などを行う。
性同一性障碍であると同時にゲイでもあり、「三条裕」名義でゲイ小説を書くこともある。
個人サイトに性別適合手術の経験談を掲載しているので、興味がある方はどうぞ(メニューの「記録」から)。
個人サイト「オフィス・エス」http://officees.webcrow.jp/