諜報員になって初仕事なの
翌日。敵側の襲撃を退け、気が立っていたロレーンは
デルフィーヌのいるクラブへ行く。「来ないと思ったわ」デルフィーヌは喜び、
「静かな場所」へ移る。
ここで壁ドン・シーンです。女の腰に腕を回したロレーンが
「なぜ銃を持っているの?」鋭く訊く。
「諜報員になって初仕事なの。ベルリンがこんなところだなんて」
怖いわ、と涙ぐむデルフィーヌをじっと見て、
「詩人になるべきだったわ。あるいはロックスターに」
荒々しく抱きよせる。
さてね、デルフィーヌが諜報員だから情報が聞き出せる、
そうだったかもしれないし、詩人になるのが夢だった、ソルボンヌ大学出の
世間知らずの優等生が、蛇の穴に投げ込まれている…それが不憫になったのか、
ロレーンに感傷はありませんが、デルフィーヌを殺されたあとの
怒りと虚しさが、苛烈な行動に駆り立てています。
壁ドンと後に続くラブシーンは、シャーリーズ・セロンが他のスパイ映画との差異化を
図るために設けましたが、それによって、ロレーンのこまやかな感情移入に成功しています。