■Just melted nazo
作業環境改善のため大掃除をしたら失せものが沢山出てきた衛澤です御機嫌よう。
年が明けました。みなさん、よい年越しをなさったでしょうか。私は昨年の暮れにとてもよいことがあり、多少浮かれながら越年致しました。
長年の(私にとっての)謎が解けたのです。
私は数学が、とても苦手です。嫌いではない。嫌いではないのですが、苦手なんです。数字なんて見るだけでくたびれてしまいます。計算は一ト桁同士の足し算でさえ億劫です。暗算はしない主義です。
しかし、整えられた理論などはとても好きなのです。中学生の頃に習った「三角形の合同の証明」なんて大好きでした。初等数学、「とにかく計算」とか「関数」とか「微積分」とか、そういったものを上手にやっつけられたら、もっともっと数学が好きになれそうなのに、と思うこともしばしばです。
数学においての私の最初の爪突きは、「算数」が「数学」になり、文字の計算が出てきて、その後辺りです。「マイナス」というものが出てきたときのこと。
マイナス。0よりも小さい数です。0から3を引くとマイナス3です。0からマイナス5を引くと5になります。そのような計算はできるようにはなりました。けれどもマイナスというものについて、ずっと判らないと言いますか、納得できないことがあったのです。
マイナスの数とは0よりも小さい数です。
一方0とは、「何もない」ということです。
「何もない」よりも小さい、とは、いったいどういうことですか?
中学1年生の私はこのことが判らないまま、成人しました。判らないまま、計算だけはしていたのです。ですから、おかげさまで学校の試験でまずい点数を取ることはありませんでしたが、「何もないよりも小さい」というマイナスの謎は謎のままだったのです。
謎を謎のまま放置していた訳ではありません。ことあるごとに詳しそうな人に訊ねるのですが、誰も答えてくれなかったのです。
或る人は「借金があると考えなさい」と言いました。でもそれは借金が「ある」のであって、「何もないよりも小さい」のとは違いますよね、と返すとその人は黙ってしまいました。
或る数学教師は「うーん、それは難しい質問だな」と言ったきりでした。
また、或る人は丁寧にマイナスの数が入った計算の仕方を説明してくれました。いえ、計算はできるのです。ただ、「何もないよりも小さい」とはどういうことなのかを納得できていないのです。
ということを考え続けて30余年。つい先日、ようやくこの疑問について回答してくださる方が現れました。30と数年抱き続けた謎に答えが得られたのです。マイナス、「何もないよりも小さい」ということ。それは、何も置かれていない机上に何らかの物体をおくことです。
「何も置かれていない机上」には「何もない空間」があります。そこに、たとえば消しゴムを1個置いたとしたら、「何もいない空間」が消しゴム1個分、減ります。
これが「何もない」よりも小さい、ということです。
一見「消しゴムが1個増えた」だけのように思えますが、違うのです。確かにその場に消しゴムが1個増えるのですが、そのことによって「何もない」が失われるのです。つまり、「何もない」よりも小さくなる。
ということを、数学ではなく経済学の先生に教えて頂いて、私は双眸から鱗を30枚くらい落としたのでした。数学すげえ。30年来の謎が氷解しましたぞ。
けれども、相変わらず計算は苦手で、一ト桁同士の足し算でも電卓を使うのでした。身体が計算を拒んでいるのだから、これは仕方がない。私の本体CPUはあまりにパワー不足なので、計算能力は外部CPUに委託するしかないのです。
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VOL.4 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(1)
VOL.5 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(2)
VOL.6 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(3)
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■衛澤 創(えざわ・そう)
和歌山市出身。文筆家。随筆・小説を主に書くが特に分野にはこだわらず頼まれたものを書く。
性同一性障碍者。足掛け15年かかって性別適合手術をすべて終え、その一方で性的少数者の自助グループに関わって相談業務などを行う。
性同一性障碍であると同時にゲイでもあり、「三条裕」名義でゲイ小説を書くこともある。
個人サイトに性別適合手術の経験談を掲載しているので、興味がある方はどうぞ(メニューの「記録」から)。
個人サイト「オフィス・エス」http://officees.webcrow.jp/