■はえぎわ

 今回から3年めに入る当コラムの原稿に取り組む衛澤です御機嫌よう。いつも載っているからと言って安心していてはいけません。読者の反応大事。

 さて今回は頭の話。頭と言っても中身ではなく、外側の話です。

 私の頭部には毛髪が生えております。おかげさまで、幼い頃から毛髪には不自由しておりません。むしろ30代後半くらいまでは髪が多すぎてうっとうしく、理髪店に行けば必ず理髪師さんは無言で梳き鋏で梳いてくれていました。

 それが、最近5年くらいのことかと思うのですが、梳き鋏を使われることがなくなりました。髪型が後ろ5厘のスポーツ刈りということもあってのことですが、さらには前頭部の毛髪が薄くなってきているのも理由かと思います。
 加齢のためもあるでしょう。それ以上に、ホルモン剤も大きく影響しているものと考えられます。

 みなさんは、男性の髪の生え際と女性の生え際のかたちがそれぞれ異なるということをご存じでしょうか。
 
 という話を、当コラムのVOL.10でさせて頂いたのですが、覚えておいででしょうか。覚えてない、或るいは読んでないという方は、数回クリックしてちょっとお読み頂くと、今回の内容がより飲み込みやすくなるかと思います。

 私は性同一性障害の当事者で、その治療のために性ホルモン剤の摂取を長いこと続けていて、それによって身体に変化が起きているのだという話を、VOL.10ではさせて頂きました。「毛」の変化が特にすごいよ、と。
 
 では、性ホルモン剤の摂取によって大きく変わった生え際のかたちがどれくらい異なっているか、ということを、写真でご覧頂こうと思います。それっ。

 

 

2010年の衛澤の頭
2017年の衛澤の頭

 毛量がかなり変化しておりますし、生え際の曲線も明らかに違っています。

 頭髪に関しては、私は洗髪以外のケアは一切していません。4週間に1回理髪店に行って整えて貰い、自宅では入浴時に洗髪して、風呂上がりにタオルで拭いておしまいです。この髪型にはドライヤーは要りません。拭いたら乾いています。

 つまり、何も手を加えていないのに、7年間でこれだけの変化が起きた訳です。まじまじと見てみますと、2010年の写真は「ヅカっぽい」ですね。「ヅカ」というのは宝塚歌劇及び同歌劇団の愛称です。
 
 対して、2017年の写真は随分おじさんらしくなりました。人によっては「みっともない」と感じるのかもしれませんが、私自身は望ましい変化だと考えています。年齢相応の姿になってきているし、「自分が自分の姿になってきた」と感じています。本来あるべき自分の姿になってきたのだ、と。
 
 してみると、やはり私はトランスジェンダー——つまりジェンダー(社会的・心理的性別)をトランス(変換、越境)した者ではないのだな、と改めて自覚するものであります。性を変更したのではなく、身体の性、出生時に割り当てられた性を訂正しただけなのだと。
 
 当事者でない人から見れば「似たり寄ったり」で違いなどよく分からないのだと思いますが、当事者の目で見ますと、トランスジェンダーと性同一性障害とは明らかに違うなあ、と感じます。学問上とは違った考え方をしているのですけれども。
 
 トランスジェンダーを自認している人たちは「脱病理」を唱えます。自分たちは病気でも障害でもなく、ライフスタイルを選択しているのだとよく聞きます。しかし、私などからしてみますと、身体の性・出生時に割り当てられた性と自認の性との食い違いは明らかに障害(生きづらさ)です。
 
 外科的手術で以て身体の性を訂正して、性ホルモン剤によって身体の性を自認の性に寄せることで、自分が自分であると認め得る身体に、姿になってきたのだと、近頃よく感じるようになりました。それは、加療によって(まったくではないにせよ)障害(生きづらさ)が取り除かれたのだと言えます。
 
 私にとって治療は必要なことであったし、とすれば、病気・障害を持っていたのだということなのですな。
 
 妥協点を見つけてそこで折り合いをつけられたというかたちではありますが、自分で自分に納得できるというのは、とても落ち着くものですね。世間の多くのみなさんは、生まれたときからこの「落ち着いた」感じを体感しておられるのかと、その安心感は如何ばかりのものかと、時折ぼんやり考えるこの頃です。

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Vol.1 はじめまして!

Vol.2 今回はちょっと長めに「わかやま愛ダホ!」

VOL.3 子宮の中の……?

VOL.4 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(1)

VOL.5 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(2)

VOL.6 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(3)

VOL.7 話しに参ります 

Vol.8 人権と愛と年越し

Vol.9 「誰もが」愉しい?

Vol.10 冬の日に毛の話を。

Vol.11 強く推したい勧めたい

Vol.12 時代の歌にleft alone(前編)

Vol.13 時代の歌にleft alone(後編)

Vol.14 猥褻は蔑まれるべきか(前編)

Vol.15 猥褻は蔑まれるべきか(後編)

Vol.16 「何もしない」というお手伝い

Vol.17 虹の祭りに

Vol.18 長い短い

Vol.19 昔、若い時

Vol.20 情報はトリミングされている

Vol.21  Just melted nazo

Vol.22 罵詈罵詈だ

Vol.23 運に負かされない人

Vol.24 不調の備え

 

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■衛澤 創(えざわ・そう)
和歌山市出身。文筆家。随筆・小説を主に書くが特に分野にはこだわらず頼まれたものを書く。
性同一性障碍者。足掛け15年かかって性別適合手術をすべて終え、その一方で性的少数者の自助グループに関わって相談業務などを行う。
性同一性障碍であると同時にゲイでもあり、「三条裕」名義でゲイ小説を書くこともある。
個人サイトに性別適合手術の経験談を掲載しているので、興味がある方はどうぞ(メニューの「記録」から)。
個人サイト「オフィス・エス」http://officees.webcrow.jp/