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私たちの人生には永遠の夜明けが待つ

キャロルがテレーズに書いた手紙です。

詩的ですけど抽象的で、これじゃテレーズが

「棄てられた」と思ったの、無理ないわね。

よく読めばキャロルが書いているのは、

緊急措置として一時的に距離をおくけれど、

いつか事態が収拾したら迎えに行く、それまでは波風立たせたくない、

今は性急に解決や説明を求めないでくれ、そう言っているのですけどね。

でも、かといってテレーズを束縛してはいけないから

「わたしにできる唯一のこととして、あなたを解き放つ」

つまりあなたは、テレーズはフリーだから、

自分なしの(キャロルなしの)人生を選択してくれてもよい…

そら、怒るわね、二階に上がってはしご外されたのと一緒だもの。

今までのわたしたちは何だったのよって、

テレーズは言いたいのよ(笑)。

原作のパトリシア・ハイスミスの長文の手紙を、

意味を損なわず圧縮した脚色に脱帽。

ハイスミスってフェイントの名人で、彼女を「不安の詩人」と

呼んだのはグレアム・グリーンでした。

ここであっさりテレーズとキャロルに、作家の本音をゲロさせるような、

人の好い物書きでは、彼女はありませんのです。

(「キャロル」)