かわいそうなイヴ
モデル二人が撮影のためポーズをとっています。
一人は服を着て、一人は全裸です。
「ダーリン、イヴはどこ?」「知らない。香水の名前でしかないのかも」
サンローランがあまり姿を見せないので、サンローランなんて、
香水の名前じゃない? と彼のモード界からの消滅を匂わせています。
このシーンは卓抜で、サンローランの夢と美を、冷たい女たち(現実)が
見ています。
「彼の犬が死んだわ。麻薬のやりすぎで」
「彼とこの世界を結ぶ唯一の存在だったのに」
「私は裸よ。あなたはサンローランを着ている。ひどい人」
「そばに来れば暖かいわ」「これは何の真似?」
「男っぽさを信じているのよ。権力を持つ人を」
「本当にバカみたい」
アーティストと権力は水と油です。サンローランのモードへの情熱は
浮世の雑事と権力から自由であるための彼のエンジンでした。
「かわいそうなイヴ。彼は繊細な少年だった」
女たちはもう過去形でいっていますね。つめた〜。