■悪いことしてなくても
スーパーマーケットやコンビニエンスストアで鮨や刺身を買うと、つい「そのまま」食べてしまうので醤油の小袋が沢山貯まってくる衛澤です御機嫌よう。
夏真っ盛りでございます。毎日暖かいですね。死を予感するほど。
暖かくなりますと、生物は活発に動き出します。植物も動物も、育ったり動いたりしやすくなりますね。人間も深夜まで屋外で活動したりしがちになります。
人間以外の生物も活動的になります。この頃は盛夏は暑すぎて却って動けず、夏の暮れ辺りから秋口にかけての方が活発だったりしますが、虫のみなさんも暖かい季節には大変活発になります。このコラムをお読みのみなさんのうちにも、蚊取り線香や電子蚊取りなど常備されている人もおられるかと思います。
私が幼い頃はスプレー式の殺虫剤が何種類も販売されておりまして、蚊取り線香に火を点けながら殺虫剤を撒くという大変危険な使用の仕方をしておりました。火があるところでスプレーはいけません。
さらに危険なことには、これでもかとやたらシューシュー撒いて、自分が殺虫剤をたくさん浴びて吸い込んだりして気分が悪くなってしまうとか、そんな幼少時代を私は過ごしました。
さて、その時代にはなかった言葉が、この数年のうちに殺虫剤界隈で聞かれるようになりました。
「不快害虫」。
これは何かと申しますと、特に害をなす訳でもないのに、姿が気味悪いとか大量に発生するために厭がられる虫をいう言葉なのだそうです。蜘蛛だとか毛虫だとかダンゴムシだとか、そういった虫たちです。害がないのに、人間が見て不快だというだけで「害虫」と呼ばれてしまって、薬で殺されてしまうのです。
蜘蛛なんて、ゴキブリなどの害虫を捕ってくれる「益虫」なのに、細長い脚が8本ある姿が気味悪いと感じる人間がいるために害虫扱いされてしまっています。
同じように小さな身体に細長い脚が8本生えている蟹はみんな「おいしそう」だとか言うのに蜘蛛は不快だとか、随分身勝手な話です。
人間に置き換えてみますと、悪いことをしていないのに、むしろいいことをしているのに、見目が悪いというだけで悪人のレッテルを貼られた上に「殺してもいい存在」と決めつけられる、というのは、如何に理不尽なことかお分かりかと思います。
人間が虫よりも大きな生きものであるばかりに、悪いことをしていなくても人間の気に入らないというだけで虫は殺されるのです。とても気の毒です。
「不快だから」という理由で罪のないものを殺す人間は、そのうち人間に対しても似たことをするようになるのではないかと、夏が近づいて「不快害虫」という文言を目にする機会が多くなると、とても憂鬱な気持ちになります。
そして、そうなったら自分はきっと不快とされて殺される側の人間だなあ、なんてことを考えて、暗澹たる気持ちになりながら寒くなるまでを過ごすのが、ここ数年の私です。
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VOL.4 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(1)
VOL.5 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(2)
VOL.6 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(3)
Vol.27 価値あるものには支払いましょう
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■衛澤 創(えざわ・そう)
和歌山市出身。文筆家。随筆・小説を主に書くが特に分野にはこだわらず頼まれたものを書く。
性同一性障碍者。足掛け15年かかって性別適合手術をすべて終え、その一方で性的少数者の自助グループに関わって相談業務などを行う。
性同一性障碍であると同時にゲイでもあり、「三条裕」名義でゲイ小説を書くこともある。
個人サイトに性別適合手術の経験談を掲載しているので、興味がある方はどうぞ(メニューの「記録」から)。
個人サイト「オフィス・エス」http://officees.webcrow.jp/