ムーア夫人、2シリング6
アルバートは毎晩、仕事が終わるとチップを数える。
「ムーア夫人、2シリング6、ドクター6ペンス」
客の誰がいくらくれたか、みな覚えている。
カーペットをめくり、床板を剥がすと
そこがお金の隠し場所だ。
コインと札をきちんと整理し、よく見れば
かなりの量だ。毎晩点検するのがアルバートの日課だ。
「サイラス・マーナー」みたいです。
でも守銭奴には思えません。
身寄りもいない、頼る人もいない、さらに
自分が女性であることを偽って、ウェイターとして働いていることがバレたらクビだ。
貧窮と差別が生まれた時からついて回ったアルバートに
お金の蓄えは切実でした。
〜「アルバート氏の人生」〜