VOL.1 「LGBT」でいいのかな?

 天ぷらやフライは平気なのにカツを食べると胸焼けがする衛澤です御機嫌よう。

 はじめましての方がほとんどと思いますので先ずは自己紹介を。
 衛澤創(えざわ・そう)と申します。昭和生まれのおじさんです。精神障碍者で性同一性障碍者でゲイでヲタクでもの書きというマイノリティの中のマイノリティ、人生の目標は「誰の毒にも薬にもならない」ことです。あと、ねこ大好きです。
「LGBTダイバーシティ」について一般によく理解して貰えるような文章を、というご依頼で連載をお請けすることになりましたが、私は二、三年前まで「ダイバーシティ」と聞いても「潜水士が沢山いる街かな」くらいにしか思っていなかった者ですから、たいしたことは申し上げられなさそうな気も致しますが、そんな風な頼りない者が書く文章ですから楽に読み流して頂ければと思います。

「LGBT」じゃよろしくない?

 さて「LGBTダイバーシティ」。今日は特に「LGBT」という言葉について。
「LGBT」という言葉は、ここ一年ほどの間にメディア等で使用されて急激に広まりました。新聞などではこれまで「性的少数者」「性的マイノリティ」の語が使われていたのですが、この流れで「LGBT」が多用されるようになってきています。当事者でない人たちには使いやすい言葉になってきたのではないでしょうか。
 しかし当事者の間では「この言葉はあんまりよろしくないかもね」という意見が沢山出てきていて、新しく別の言葉を使っては如何かという流れになってきたところでした。
 それは何故か。
「LGBT」をおさらいしてみましょう。

 

セクシュアリティって、もっといろいろある

「LGBT」とは、L:レスビアン(女性同性愛者)、G:ゲイ(男性同性愛者)、B:両性愛者、T:トランスジェンダー(自認している性と身体の性が一致しない人)の、それぞれ頭文字を並べた語です。
メディアはこれによって「性的少数者」を表そうとしているのですが、実は性的少数者とは、これ等四通りの人たちだけではありません。
 Aセクシュアル(無性愛者)と呼ばれる恋愛感情や性的欲求を持たない人、パンセクシュアル(全性愛者)と呼ばれる男女二性だけでなくあらゆる性が恋愛対象になる人、ノンセクシュアル(非性愛者)と呼ばれる恋愛感情はあり得ても性的欲求は抱き得ない人、ほかにグレーセクシュアルやデミセクシュアルやポリセクシュアルやいろいろ、いろいろ……。
 しかし「LGBT」という言葉は四者のみを表すのが精一杯。では、Aセクシュアルとかパンセクシュアルとか、ほかのセクシュアリティの人は無視されるの? それはよろしくないんじゃない?

 

本当はSOGIというべき?でも…

 という訳で、英語圏ではそんなことにならないようにほかの言葉が提案されているそうです。
たとえばGSM(ジェンダーと性的少数派)、GSRM(ジェンダーとセクシュアリティとロマンティックマイノリティ)、GSD(ジェンダーとセクシュアリティの多様性)、SOGI(性指向と性自認)などなど。
性的少数者は性指向(どの性の人を好きになるか)か性自認(自分の性をどう認識しているか)、もしくはその両方が「心身の性が一致した(これを「シスジェンダー」と言います)異性愛者(ヘテロセクシュアル)」とは異なっている人を言いますから、これ等の語はなるほどそういった人たちを一括して表現し得るかもしれません。
日本でも「SOGIって、いいんじゃない?」という声が上がってきています。
 けれども、よく見てください。
GSM、GSRM、GSD、SOGI、何れも「セクシュアリティ」を表す語であって「人」を表す語ではないのです。
では「人」を付ければいいのかというと、「GSRMの人」とか「SOGIの人」とか、それも何だかおかしい。

 

「L・G・B・T」+たくさんのセクシュアリティ…
「LGBTQ」はどうかな

 それじゃもう「性的少数者」や「セクシュアルマイノリティ」でいいんじゃない?
と思ったりしますが、これに該当する人というのは、先程も申しましたようにシスジェンダーでヘテロセクシュアル(シスへテロ)「以外」の人たちです。
とすれば、シスへテロの方がそれ以外の人たちよりも少ないんじゃない?
ということも考え得る訳で、果たしてどちらがマイノリティ(少数者)?
 かように「シスへテロ以外の人」を表すのはなかなか難しいです。
日本では「LGBT」という語がが知られはじめたところですし、現在では最も通りのいい言葉でしょう。
今後暫くはこの言葉が使い続けられることと思います。
しかし、みなさんがこの言葉をお使いになるときには「L・G・B・Tの四者以外のセクシュアリティの人たちもいるんだ」ということを心に留めながら使うようにしてください。

 衛澤個人としましては、「LGBT」に「Q」をくっつけた「LGBTQ」が現在のところの最適解ではないかな、とぼんやり考えております。
「Q」とは「Questioning」、自分のセクシュアリティがまだ判然としない人、及び「Queer」、シスへテロ中心の社会に違和を覚える人たちの、それぞれ頭文字です。
この語が一番取りこぼされる人が少なく表せるのではないかな、と思うのです。
 ほかにもっと適語があるよ、という方はぜひ教えてください。

 

Vol.2 今回はちょっと長めに「わかやま愛ダホ!」

 

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■衛澤 創(えざわ・そう)
和歌山市出身。文筆家。随筆・小説を主に書くが特に分野にはこだわらず頼まれたものを書く。
性同一性障碍者。足掛け15年かかって性別適合手術をすべて終え、その一方で性的少数者の自助グループに関わって相談業務などを行う。
性同一性障碍であると同時にゲイでもあり、「三条裕」名義でゲイ小説を書くこともある。
個人サイトに性別適合手術の経験談を掲載しているので、興味がある方はどうぞ(メニューの「記録」から)。
個人サイト「オフィス・エス」