杉野遥亮

すみれ、聞こえるかな

〜 「やがて海へと届く」31〜

すみれ、聞こえるかな   真奈がカメラを持っている。 「5月13日。晴れ。17時51分。 最初に会った時のこと覚えていますか。 あの時私の髪を結んでくれたショウショは 返しそびれていた気がします。どこにあるのだろ。 すみれ。聞こえるかな。そちらからこちらは見えますか。...

電車は来ないよ

〜 「やがて海へと届く」30〜

電車は来ないよ   津波の描写はアニメです。 赤いスニーカーを履いたすみれの足元が水に浸り 「電車は来ないよ」という文字がゆらゆらと まるで冥界のメッセージのようにゆらめく。 波がきて駅が沈む。すみれが大波にのまれ沈んでいく。 生まれてからの自分が走馬灯のように通り過...

一緒に暮らそう

〜 「やがて海へと届く」29〜

一緒に暮らそう   すみれが遠野にインタビューしている。 「なんだかノリが悪いなあ。どうも楽しくない」 「カメラがないと喋べれないんでしょ」と遠野。 唐突にすみれ「一緒に暮らそう」 「思ってもいないこと、言うなよ。真奈はどうすんだ?」 「嫉妬してんの?」 キッパ...

一人の方が好きです

〜 「やがて海へと届く」28〜

一人の方が好きです   東北のとある駅。すみれがベンチに座っていた。 初老の女性が話しかけた。 「どこからきたの?」 「東京からひとりで」 「さびしくねえか」 「一人の方がゆったりできて好きです」 「わけえんだな」。そのときだ。 遠くから低い地鳴りのような...

真奈の服を借りていくよ

〜 「やがて海へと届く」27〜

真奈の服を借りていくよ   すみれはよく一人で旅行することがあった。 こんな会話を交わしたことがある。 「つぎ、いつ会えるかな」と真奈。 「旅行に出ようかと思っている」 「いいなあ。どこいくの?」 「ちょっと海を見に」 真奈の服を借りていくよ、残したすみれのメモ...

チューニングするだけよ

〜 「やがて海へと届く」26〜

チューニングするだけよ   場面は過去にさかのぼる。 家を出て真奈の部屋に同居したすみれ。 真奈が話しかける。 「私もすみれみたいに誰とでも話せたらいいな」 「チューニングするだけよ。周波数を合わすのよ。 そうしているうちに、 本当の自分を引き出してくれる人に会...

もう行っちゃうの?

〜 「やがて海へと届く」25〜

もう行っちゃうの?   帰京した翌朝、真奈はすみれの訪れを感じる。 眠っている自分のベッドにすみれが腰掛け 「よく眠っていたね」 真奈が答える。 「夢を見ていた。よく覚えていない」 「コーヒーを淹れといた。またね」 「もう行っちゃうの?」 幻のすみれは真奈...

わらべ歌聞かせてもらえない?

〜 「やがて海へと届く」24〜

わらべ歌聞かせてもらえない?   翌朝、まだ暗いうちに真奈は海岸にでた。 荒波が打ち寄せる。民宿の娘である高校生の女の子がきた。 父と祖母が行方不明のままだった。 「おばあちゃんとは浜辺で貝を拾ったり、 わらべ歌を教えてもらった」とインタビューに答えていた。 「わらべ...

親友がまだ帰ってこないので

〜 「やがて海へと届く」23〜

親友がまだ帰ってこないので   地元のボランティアが震災の記録を残そうと 被災者にインタビューしていた。 「どうしてこっちにきたの?」と聞かれた真奈は 「親友がまだ帰ってこないので。 震災の時に一人旅でここにきて」 まだ帰ってこない、と聞いた女性は同情した。 親...

ここに彼女がいるとは思えない

〜 「やがて海へと届く」22〜

ここに彼女がいるとは思えない   国木田の運転で真奈は被災地に向かった。 現地では復興が進んでいた。整備した防波堤から海を見る。 「ここに彼女がいるとは思えないのですよね。 変わっていくのは当たり前なのでしょうけど。 本当は私もちょっとずつ、忘れてきているのかもしれません」...