ヴァンサン・カッセル

感じたわ、私は完璧だった

〜「ブラック・スワン」㉚〜

  感じたわ、私は完璧だった   ラストは女王(白鳥)が命を落とすシーンです。 ニナは傷つけた体で最後の場面に挑む。 妄想に苦しみ、妄想に狂い、妄想によって完結させた黒鳥。 「感じたわ、私は完璧だった」 薄れゆく意識の中でニナはつぶやく。 「アートとは必ずしも健康なものである...

(黒鳥の羽ばたき)

〜「ブラック・スワン」㉙〜

  (黒鳥の羽ばたき)   ニナは悪の黒鳥を踊りきった。 ニナは黒鳥のイメージを自分のものとしたのです。 大きな黒い翼が力強く羽ばたき、悪意に満ちた目は美しく輝く。 愛を奪う破滅の黒鳥は力と魅力に溢れていた。 ニナは恐れていた黒鳥を、 実は人間が憧れてやまない、魔界の創造主に...

ニナ、私が黒鳥を踊ってあげるわ

〜「ブラック・スワン」㉘〜

  ニナ、私が黒鳥を踊ってあげるわ   幕は上がった。ニナは滑り出しで失敗した。 王子役がニナを受け止められず、落としてしまったのだ。 トマは苦虫を噛み潰し、「まずい出だしね」とリリー。 幕間の休憩時間、ニナの楽屋にリリーが来た。 「ねえニナ、私が黒鳥を踊ってあげるわ」 これ...

なぜ来たの?病気のはずよ

〜「ブラック・スワン」㉗〜

  なぜ来たの?病気のはずよ   楽屋に姿を見せたニナにみないぶかる。ママから電話があったのだ。 「なぜ来たの? 病気のはずよ」 代役のリリーが踊る手はずになっていた。 「私は来たのよ。私が踊る」ニナは強硬に主張する。 トマ「君の道を塞ぐのは君自身だ。 邪魔者を取り除き、自分...

私のニナはどこに?

〜「ブラック・スワン」㉖〜

  私のニナはどこに?   精神の異界に滑り込もうとするニナに、ママは気が気ではなかった。 「役につぶされる。私のニナはどこに?」 いっそもう降りた方がいい。 「病気よ。あなたには無理よ」 ニナは食ってかかる。その言い方が意地悪だった。 「私は主役よ。ママは群舞の一人だったじ...

私のものを盗んだの?

〜「ブラック・スワン」㉕〜

  私のものを盗んだの?   「なにしに来たの?」ベスが訊きます。 ベスのイヤリング、香水…ベスの楽屋から黙って持って行った。 「私のものを盗んだの?」 「あなたのように完璧になりたくて」 ベスの持ち物を身につけて、彼女のようでありたいと願った。 いじらしいというか、切ないと...

ほどほどにしろ

〜「ブラック・スワン」㉔〜

  ほどほどにしろ   役をとられる…ニナの妄想は広がり、忘れるために練習に没頭します。 明日は初日だというのに、いつまでもレッスンを止めない。 ピアノの伴奏を受け持つスタッフは 「もう疲れたよ。ほどほどにしろ。明日は初日だ」 強迫観念が常軌を逸したレッスンになっている。 「...

私を傷つけようとしている

〜「ブラック・スワン」㉓〜

  私を傷つけようとしている   トマはリリーをニナの代役としました。 主役に何かあった時のリリーフです。 ごく通常の措置ですが、ニナはそう受け取らない。 「彼女は役を狙っている。私を傷つけようとしている」 トマは驚きますが、初日を控え神経が高ぶっていると思った。 「君は苦し...

「泊まったでしょ」「いいえ」

〜「ブラック・スワン」㉒〜

  「泊まったでしょ」「いいえ」   目がさめるといるはずのリリーがいません。 レッスンに急ぐ。ごく普通の顔をしたリリーがいた。 「昨日、泊まったでしょ」「いいえ」 リリーは不審に聞き返す。 「でも」口ごもるニナにパッと笑い 「私とやってる夢を見たの? 私、よかった?」 そ...

(黒い翼)

〜「ブラック・スワン」㉑〜

  (黒い翼)   リリーに挑むニナの背に、みるみる黒い大きな翼が広がります。 怪鳥のように羽ばたく。ニナは激しくリリーを求める。 リリーの顔が自分の顔に変わっている。 もう一人の自分が、悪の黒鳥がついに姿を現しました。 ニナは潜在意識の中で、内なる黒鳥に呼びかけていたのです。...