エイリ・ハーボー

(アンニャが来た)

〜「テルマ」㉛〜

  (アンニャが来た)   大学のキャンパス。テルマはベンチに腰掛けている。 木立がざわめく。何が起こるか感じる。 アンニャが来るのだ。 後ろから近づいたアンニャが首筋にキスした。 並んで歩きながら「とてもきれい」とテルマ。 アンニャは白いワンピース。 「あなたも私の上着が...

私を自由にさせて、パパ

〜「テルマ」㉚〜

  私を自由にさせて、パパ   「おばあちゃんに会った。私も同じようにするの? そうなのね、パパ?」 パパは返事しないまま、ボートで湖に出た。テルマが岸から見ている。 テルマの悲しみが強い念動力を呼び起こす。 湖上のパパは体から炎を発し、水に飛び込んだが、 炎が邪魔して水面に...

もうムリよ。自分たちを欺けない

〜「テルマ」㉙〜

  もうムリよ。自分たちを欺けない   父親と母親が額を寄せて話し合っている。 「もうムリよ。自分たちを欺けない。また、繰り返したら?」とママ。 「あなたは善良でやさしい人。 でも善良さだけではあの子に太刀打ちできない」 パパは注射の準備をする。 殺すつもり? ママもおかし...

私, 彼女を愛していた

〜「テルマ」㉘〜

  私, 彼女を愛していた   「姿を消した子がいる」と聞いたパパは 「彼女に怒りを感じたか?」とテルマに問う。 「いいえ」ときっぱり。 「私、彼女を愛していた。彼女も私を愛していた」 「よく考えろ。お前が愛させ、そして消えるよう望んだのだ。 彼女に選択肢はなかった」 テル...

私は欲望を求めました

〜「テルマ」㉗〜

  私は欲望を求めました   テルマは素直な娘だから、「神よ、憐れみたまえ」と祈る。 「私は欲望を求めました。心を清め、聖霊によってお救いください。 父の期待が重荷なのです。なぜ私自身でいてはいけないのですか」 そりゃ思春期の子だもの、欲望するのがむしろ自然でしょう。 心を清め...

お前には力がある

〜「テルマ」㉖〜

  お前には力がある   パパの話は続きます。 「お前には力がある。全身全霊を込めて何か願うと、その力が 願いを叶えてしまうのだ」 何てすごいの! 世界は思いのままじゃない。 でもものすごいエネルギーを使うから、 「死霊館」のロレイン(実在)も 霊と交信したら体力を使い果た...

話すことがある。辛いことだ。

〜「テルマ」㉕〜

  話すことがある。辛いことだ。   意識がもうろうとしてきたテルマにパパが告げる。 「話すことがある。辛いことだ」 湯船にいたはずの弟がいなくなった。「弟はどこだ。何をした」 少女のテルマは窓の外の湖を指さした。 パパが探しに行くと、凍った透明の氷の下に弟が死んでいた。 母...

おばあちゃん、テルマよ

〜「テルマ」㉔〜

  おばあちゃん、テルマよ   テルマは介護施設に祖母に会いに行った。 「おばあちゃん、テルマよ」祖母は寝たきりで意識がない。 看護師が「たぶん、薬が強すぎるのよ。 お父様に薬を変えるよう言ったけど、そのままだった。 夫が姿を消したのは 自分がそうなるように念じたからだと悔や...

気になるのは遺伝的要因です

〜「テルマ」㉓〜

  気になるのは遺伝的要因です   検査は終わった。 テルマの発作は心因性と診断された。 医師「精神的抑圧への肉体的反応。ストレスか、何かのトラウマか。 気になるのは遺伝的要因です。 お祖母さまは精神疾患を抱えていたようですが」 「祖母はかなり前に亡くなりました」 「おかし...

辛い気持ちを抑えないで

〜「テルマ」㉒〜

  辛い気持ちを抑えないで   「辛い気持ちを抑えず飛び込んで」と医師はアドバイスする。 テルマはアンニャとの抱擁を思い出している。 一方で「このような考えを捨てさせてください」と 神にすがる自分がいる。アンニャと一緒にいた図書館、講義室、 想念の中でアンニャの部屋の窓ガラスが...