監督 フランシス・リー

私よ、メアリー

〜「アンモナイトの目覚め」(32)〜

  私よ、メアリー   令和4年が始まりました。あけましておめでとうございます。 「アンモナイトの目覚め」が続きます。 メアリーとシャーロットに心打たれたのは、彼女らが、 特にシャーロットがのびのびと愛の関係を築こうとしたことです。 例えば「燃える女の肖像」では...

昨年の今頃は雪だったのよ

〜「アンモナイトの目覚め」(31)〜

  昨年の今頃は雪だったのよ   胸を打つ一夜が明けた。 帰京の朝。馬車の用意ができている。 「暖かいわ」。独り言のようにメアリーが言った。 目を伏せたまま、誰にいうともなく 「昨年の今頃は雪だったのよ」 シャーロットは声もなく見つめる。 馬車が見え...

ありがとう…

〜「アンモナイトの目覚め」(30)〜

  ありがとう…   壁を向いてシャーロットが突っ伏している。 メアリーがベッドの端に腰掛けると、背を向けたまま何か手渡した。 小花を刺繍した白いハンカチだ。 ランプのそばで、シャーロットが刺繍していた。 「ありがとう…」 メアリーはそれだけ言って、ハンカ...

手紙だよ、マーチソン夫人

〜「アンモナイトの目覚め」(29)〜

  手紙だよ、マーチソン夫人   シャーロッットがマッシュルームのバター炒めを 美味しそうに頬張っている。 「豪勢だね」。母親が覗き嫌味たらしく言う。 「おかけになって。たくさんあるわ」。 メアリー無言。何かある。 案の定、「手紙だよ、マーチソン夫人」。 ...

大英博物館にある

〜「アンモナイトの目覚め」(25)〜

  大英博物館にある   シャーロットがそばにある古ぼけた画帳の素描を見る。 「それは特別よ。私は11歳。何日もかけ掘り出しクリーニングした」 「見てみたい」 「大英博物館にある。イクチオザウルスと名付けられて。 下手な絵よ。子供だったから」 「わたし、好...

かなり貴重よ

〜「アンモナイトの目覚め」(24)〜

  かなり貴重よ   メアリーの精査によって、徐々に化石の一部が姿を現してきた。 「ここを見て。脊椎骨が並んでいる。肋骨が連結しているの」 珍しくメアリーが饒舌だ。興奮気味に、楽しそうに話す。 「この形からすると、頭蓋骨に近い部分ね」 「いいこと?」 「か...

メアリー、あれを見て

〜「アンモナイトの目覚め」(23)〜

  メアリー、あれを見て   翌日天気はいい。シャーロットは機嫌よさそうだ。 軽装で、しっかりドタ靴の紐を締め岩壁の一点を凝視。 「メアリー、あれを見て!」自信満々、指さす。 一瞥したメアリー、「ダメ、大きすぎて運べない」 シャーロット、そんなことで引っ込まない...