リー君、矢を射る、の「矢」だぞ
今度はアンの受難だ。「お父さん、朝食よ」
花の世話をしている教授に朝食を運んできた。
「私の朝食は8時でなく7時半だ。それ以外はすることがある。
下げろ。今朝は食べない」
そこをリー・ミンが見ていた。
その夜「おほん、おほん」気取ったせきばらいとともに、
父教授の紺の服を着たアンがリー・ミンの部屋に入ってきた。
おもむろに鉢の花の匂いを嗅ぎ
「これはデイゴ、矢に使う毒だ」
口調もすっかり父の真似をしている。
「リー君。矢を射る、の矢だぞ。昔の人はこの果実をとって数時間
水でふやかし、薄布で汁をこし、弱火で蒸して毒薬を作った」
薬草学の講義がひとしきり。
「チェン教授、博学ですね」リー・ミンがクソ真面目に芝居する。
アンがおかしそうに笑った。ひたひたと二人の距離が縮まってくる。
〜「中国の植物学者の娘たち」〜