■いまからでも遅くはない
心を入れ替えることが多すぎて生まれたときに持っていた心をすっかり失くしてしまった気がしている衛澤です御機嫌よう。
ここ数年、持病のために寝たり起きたりの生活が続いて、身体能力が衰えていくのが自分でよく分かって不安な日々を過ごしておりました。それに加えて、日常生活の運動量の少なさ。私どもライターというのは書きものをするのが仕事ですから、1日中書きものをしている訳です。
そうしますと、在宅での仕事でもありますので、自宅のパソコンの前に1日中おりまして、立ち上がるときと言えば3つの場合だけです。即ち、食事の用意をするとき、トイレに行くとき、床に就くときです。それ以外はパソコンの前にすわっているのです。
1日の最長移動距離がパソコンートイレ間。1日に100歩も歩かない、ずっと座位の生活。これはあんまりだ。
こんな私も10年前は毎日トレーニングジムに通って自分の体重と同じほどの重さのバーベルを上げ下げしていました。筋肉は使わなければどんどん衰えていくし、使った分発達していきます。使わねば。
その二つの思いが重なり、私は少しだけ仕事の時間を削って、運動に当てることにしました。しかし身体の衰えというのは本人が思っている以上にひどいことが多いです。たとえ軽ーいウエイトでもいきなり持ち上げるのは大きな負担になるかもしれない。そう考えた私は、まず柔軟体操のみをはじめました。
10年ほども運動らしい運動をしない生活をしていた身体は、怖ろしいほど柔軟性を失っていました。立位体前屈をしても、脚の裏側がつっぱる上に床に手のひらがつかない! 思わず口から出た「うそーん」。
つい10年前まで膝を真っ直ぐ伸ばした状態で身体を折り曲げて、手のひらがぺったりと床についた上で腕を僅かに曲げる余裕もあったというのに。
学生時代、体育の時間にやっていた柔軟体操を毎日やることにしました。柔軟だけならたいして時間も取りません。ゆっくりじわじわ身体を曲げます。前に曲げても爪先をさわるのに苦労する、脚を広げたらそれだけで内転筋(太股の内側の筋肉)が引っぱられて痛む、右手で左の体側をさわろうとして届かない……自分でも信じられないくらいの身体の硬さ。愕然とします。
それでも、「なにもしないよりはずっとまし」と自分に言い聞かせ、1週間続けました。そうすると、明らかに1週間前とは違う自分になりました。
前屈すれば何とか床に手のひらがつくようになりました。
両脚を90度に開いても痛くなくなりました。
身体ねじねじはまだちょっと厳しいです。これは身体の厚みも邪魔しているようです。
40代もそろそろおしまいの私。いまさら体操しても、という気持ちもない訳ではありませんでした。でも、若者ほどではなくても、身体を動かせば発達はするようです。
以前にこのコラムでもお話ししたことがあるかと思いますが、60歳からマラソンをはじめて30年のキャリアを重ね、マスターズで優勝したというランナーもおられます。何ごともはじめるのに遅すぎることなんてないのですね。ドイツのことわざにも「遅くても何もしないよりはまし」というのがあるそうです。
1週間、柔軟体操を続けて少ーしやわらかくなった身体は、運動メニューに「散歩」を加えることでまた少ーしだけ持久力を取り戻しつつあります。機械も人間の身体も、動かしすぎると壊れますが、動かしていないと動かなくなってしまいます。無理させない程度に、できるだけ使いましょう。
特に10代・20代の人は、いまのうちに身体能力を発達させて上限値を上げておくと、衰える速度を抑えることができるのでおすすめです。30代以上の人は既に衰えがはじまっているので、いま以上に衰えないためにも意識的に身体を動かしましょう。
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VOL.4 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(1)
VOL.5 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(2)
VOL.6 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(3)
Vol.28 悪いことしなくても
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■衛澤 創(えざわ・そう)
和歌山市出身。文筆家。随筆・小説を主に書くが特に分野にはこだわらず頼まれたものを書く。
性同一性障碍者。足掛け15年かかって性別適合手術をすべて終え、その一方で性的少数者の自助グループに関わって相談業務などを行う。
性同一性障碍であると同時にゲイでもあり、「三条裕」名義でゲイ小説を書くこともある。
個人サイトに性別適合手術の経験談を掲載しているので、興味がある方はどうぞ(メニューの「記録」から)。
個人サイト「オフィス・エス」http://officees.webcrow.jp/