■価値あるものには支払いましょう

 

 入浴時にたびたびボトルを間違えてボディシャンプーではなくシャンプーで身体を洗ってしまう衛澤です御機嫌よう。

 さて、みなさん。支払っていますか?

 何をかと言いますと「正当な対価」です。近頃は——いえ、近頃に限った話ではなのかもしれませんが、「かたちのないもの」に支払わない人があまりにも多く、しかもそれを当然のことと思っているのだと、たびたび聞き及びます。

 最近、話題になったところでは、漫画の海賊版サイト。著作権者(作者や出版社)に無断で漫画作品を転載し、それらを無料で読ませるwebサイトが問題になりました。

 無断で、つまり作者や出版社に適切な使用料を支払うことなく漫画作品を掲載することで客を呼び、漫画とともに掲載した広告によって収入を得ていたという悪徳サイトです。

 こういった違法サイトで漫画を読むことを「当たり前」と思ってしまっている層が少なからずいて、ファンレターやSNSなどで作者宛てに直接「◎◎(海賊版サイト名)で読みました!」なんてことを平気で言ったりしているのです。

 そればかりか、「○○さんの△△という漫画は◎◎(海賊版サイト名)で読めないのて読めるようにしてください」など厚かましくも見当違いな要求する人まで少なくない数いるのだと幾人もの漫画家氏が告白していますし、同じ例が音楽業界にもあるようです。

「無料だから読む」という人たちは別としても、作家に声をかけてしまうような人は、その作家の作品が好きで読むのではないのでしょうか。好きだということは、作品に価値を感じているということ。ならば何故その価値に対し「支払う」ということをしないのでしょうか。

 他方で、「さらに支払う」システムを考える人がいます。定価を支払って作品を購入した上で、さらにもう少し作者に支払いたい人が支払う「投げ銭」システムです。これを考えたのはお金を受け取る側ではなく、支払う側の人です。

 たとえば、出版業界では単行本の印税はたいてい10%です。読者が1000円の単行本を購入すれば、印税として100円が作者に支払われます。
 その本を読んだ読者が「おもしろい。この作者にもっと儲けてほしい」と思ったら、さらに任意の額を直接作者に支払うことができる、というシステムがあればいい、というのです。

 たとえ100円でも、そうやって支払われたら出版業界は大きく変わります。たかだか100円、と思うかもしれませんが、印税が1冊につき100円の本についてさらに100円が支払われたら、作者の1冊当たりの収入は倍になるのです。

 金銭的に潤えば心理的余裕もできて、作者はより秀れた作品を生み出す可能性を高めることができるでしょう。たとえ少額でも「支払われた」という事実が、自分の作品に対して定価以上を支払いたいと思った人がいるという事実が、作者をよろこばせ勇気づけます。

「タダで当たり前」と思っている人々。
「定価以上を支払いたい」と思う(こともある)人たち。
 同じ国に生まれ育ちながら、このように意識の違いが表れるのは何故なのでしょう。
 価値あるものには支払う。それだけで作品が、作者が、業界が、文化が守られます。
 
 何より、秀れた作品に出会ったら「もっと払わせろ」という気になるものではないでしょうか。私はいつも思っています。
 だから、先述の「投げ銭システム」には大賛成なのです。おもしろいものを読ませてくれた作家には「コインもういっこいれる」くらいのことは、ささやかながらさせてほしい。

「不正に享受する」ことが、或るいは定価プラスアルファで積極的に支払うことが、つまり消費者の行動が、作家や業界に小さからぬ影響を与えるのだということがお分かりでしょうか。

 不正な手段で消費して、支払わない。それは作家のクリエイティビティを削ぎ、その数が増えたなら、業界は衰退してしまいます。業界の衰退は周辺文化の衰退にもつながるでしょう。

 価値あるものに、価値に相当する分を支払う。これは等価交換の原則に則るものであり、文化を守るものであり、経済をまわすものであり、さらによいものを生み出す礎を築くものです。

「価値あるものに支払う」という当たり前のことを実行するだけで、守れるものがあります。育むことができるものがあります。価値あるものには気前よく払おうではありませんか。

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Vol.1 はじめまして!

Vol.2 今回はちょっと長めに「わかやま愛ダホ!」

VOL.3 子宮の中の……?

VOL.4 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(1)

VOL.5 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(2)

VOL.6 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(3)

VOL.7 話しに参ります 

Vol.8 人権と愛と年越し

Vol.9 「誰もが」愉しい?

Vol.10 冬の日に毛の話を。

Vol.11 強く推したい勧めたい

Vol.12 時代の歌にleft alone(前編)

Vol.13 時代の歌にleft alone(後編)

Vol.14 猥褻は蔑まれるべきか(前編)

Vol.15 猥褻は蔑まれるべきか(後編)

Vol.16 「何もしない」というお手伝い

Vol.17 虹の祭りに

Vol.18 長い短い

Vol.19 昔、若い時

Vol.20 情報はトリミングされている

Vol.21  Just melted nazo

Vol.22 罵詈罵詈だ

Vol.23 運に負かされない人

Vol.24 不調の備え

Vol.25 はえぎわ

Vol.26 理髪店の謎

 

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■衛澤 創(えざわ・そう)
和歌山市出身。文筆家。随筆・小説を主に書くが特に分野にはこだわらず頼まれたものを書く。
性同一性障碍者。足掛け15年かかって性別適合手術をすべて終え、その一方で性的少数者の自助グループに関わって相談業務などを行う。
性同一性障碍であると同時にゲイでもあり、「三条裕」名義でゲイ小説を書くこともある。
個人サイトに性別適合手術の経験談を掲載しているので、興味がある方はどうぞ(メニューの「記録」から)。
個人サイト「オフィス・エス」http://officees.webcrow.jp/