■不調の備え
気づけば本年、年男の衛澤です御機嫌よう。4月は誕生月です。
新年度がはじまりました。新しい環境でスタートの人、前年の環境を継続の人、いろいろおられるかと思いますが、みなさん体調はいかがでしょうか。私は例年通り不調を来しております。
季節の変わり目、特に春先というのは健常の人でも何だかちょっとしんどかったり気分がすぐれなかったりすることがあるかと思います。精神疾患があるとその調子のよろしくなさは顕著になります。そして私は精神障害者手帳を持つ者です。
主たる病名はうつ病なのですが、ほかにパニック障碍、睡眠障碍、摂食障碍、社会不安障碍、適応障碍など併発しておりまして、どれがどの症状とは判然としないのですが、とにかく3月から5月中旬くらいまでは毎年調子がよろしくなくて、寝込んだり起きたりしながら過ごしています。
倦怠感、頭重感、偏頭痛、肩凝り、眼精疲労、入眠障碍、過眠もしくは不眠などなどが、不定愁訴というたいへんうっとうしいかたちで身体症状として顕れます。この上に著しい気力の低下が重なって、症状がひどいときは横になった状態から身体を起こすことさえできなくなります。
本稿執筆中のただいまは絶賛春の不調期間中でして、動けない時間と動けない時間との隙間を見つけて執筆しております。
いつ活動できていつ起き上がれないかは、だいたいの時期は予測できても、「この日は動ける」「この日は寝込む」なんてことは自分でも分かりません。いま動けても10分後の自分が動けるかどうか分からないんです。明日のことなんて何の保証もないのです。
それ故、普段から「動けないときのための用意」をしておく必要があります。
仕事はできるだけ日程を前倒しにして済ませておきます。そうしないと「締切間際なのに仕事ができなくて納品が遅れる」なんてことが起きる可能性がありますので、ご依頼頂いたら直ちに着手して、駆け足気味に終わらせます。
お請けした仕事が期日までに納められないなどということがないように、日程は健常のみなさんよりもゆるく設定します。ひとつの仕事に対しての日数を多く見積もるのです。そうしておけば、途中で何日か寝込む日があっても焦らなくて済みます。
故に、私が一定期間内にこなせる仕事量は少ないです。これは私のもうひとつの持病である「貧乏」の一因ともなっています。
しかし、この習慣のおかげで、納品が間に合わなかった仕事は、おかげさまでまだ一件もありません。これは仕事をする上での大切な要素である「信用」に繋がっています。
症状がひどくなると自分の身のまわりの世話もできなくなるので、日常の作業で省ける部分は省いておきます。
調子を崩すと自分の食事を用意したり、後片付けができなくなります。そのときの備えとしてインスタント食品を一定量備蓄しておき、食器は紙コップや紙皿、割り箸や100円ショップで買えるプラスチック製のスプーンなど、使い捨てられる(洗えなくても構わない)ものを普段から使っています。
こういう備えをしておけば、食事の用意がしんどいときでも食べることはできる場合が多いですし、洗いものを省くことができます。インスタント食品を備蓄しておくことで、買いものに出掛けることができなくても一定期間は食いつなぐことができます。
食べることの備えと同時に、排泄の備えもしておかなければなりません。むしろ食べることよりも重要です。
トイレの掃除は「きれいにする」と同時に「汚れにくくする」手立てが必要です。防汚コートなどを使用して、長期間掃除できなくても不衛生でないようにしておきます。
大切なのはトイレットペーパーです。
買いものに出掛けられないのにトイレットペーパーを切らしてしまったら目も当てられません。これも食料同様、多めに買って、直ぐに取り出せる場所に保管しておきます。
入浴もままならなくなることも多いので、清拭用のウェットティッシュやデオドラントシートも確保しておきます。入浴するほどの元気はないけれど拭くぐらいならできるかな、という体調のときもあるので、そういうときに手早く済ませられるようにしておくのです。
タオルを湯で絞ればいいじゃない、と思うかもしれませんが、「湯を沸かす」、「タオルを濡らす」、「濡れたタオルを絞る」というひとつひとつの工程が、不調時には重労働なのです。
大袈裟なことを、とお思いの方もおられるかもしれませんが、決して誇張している訳ではなく、ほんとうに「それだけ」のことができなくなるんです。自分の意志で自分の身体を動かすことができなくなるのですから。「寝込む」とか「動けなくなる」というのは、そういうことです。
ここまでひどくなると「洗濯機に洗濯ものと洗剤を入れてスイッチを押す」ということも当然のようにできなくなっているので、下着も多めに揃えておきます。着替えることができれば着替えます。洗濯は不調が解消してから。
「おパンツはき替えるくらいのことが何故できない?」とお思いなのは御尤もなのですが、できないときはほんとうに何もできないのだもの。自分でも元気なときは「何でこれができないかなー」と思うことがあります。
こんな感じで、動けないときのためにいろいろ備蓄しています。備蓄の品で宅内が狭くなるのは仕方がありません。
こうして挙げてみると、食料や衛生用品の備蓄など、災害時の備えと似ています。そう言えば、うつ病などの精神疾患による不調というのは、台風によく似ています。
来ることは判っていても防ぐことはできなくて、来たら安全なところに潜んで通り過ぎるのをじっと待つしかない。うつ症状はこういうものなんです。厭でも来るときは来るんです。
じたばたしたところで台風が早く行き過ぎてくれたり進路を変えたりしてくれることはありません。できるだけ備えをして過ぎるのを待ちます。
うつの症状も同じです。調子が悪くなったら、調子が悪い時期が過ぎるのをおとなしくじっと待つしかありません。
台風の進路を変えることはできませんが、台風が来てもやり過ごせるようにコロッケを買ったり、備えておくことはできます。うつ台風も同様に備えておいて、被害を最小限にとどめられるようにしておく、ということ私はしています。「最小限」がどの程度になるかは判りませんが、やるだけはやっておきます。
毎年、日本には秋の手前に必ず幾つか台風が来ます。私の台風は、春と秋にやってきます。ただいま春の台風のために避難生活中ですが、来月には避難解除になるのではないかな、と思います。できましたら来月、このページでまたお会いしましょう。
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VOL.4 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(1)
VOL.5 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(2)
VOL.6 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(3)
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■衛澤 創(えざわ・そう)
和歌山市出身。文筆家。随筆・小説を主に書くが特に分野にはこだわらず頼まれたものを書く。
性同一性障碍者。足掛け15年かかって性別適合手術をすべて終え、その一方で性的少数者の自助グループに関わって相談業務などを行う。
性同一性障碍であると同時にゲイでもあり、「三条裕」名義でゲイ小説を書くこともある。
個人サイトに性別適合手術の経験談を掲載しているので、興味がある方はどうぞ(メニューの「記録」から)。
個人サイト「オフィス・エス」http://officees.webcrow.jp/