クビにして

クビにして

 

帰りの山道を下りながら、ヴァルがいきなり話しかける。

「クビにして」

驚いて振り向いたマリアに

「わたしの考えが単純すぎるなら、

わたしの意見や解釈が面白くないならわたしの役目はないでしょ。 

セリフの相手だけなら他の人を探して」

マリアは「解釈と演じるのは別だといっているだけ。

あなたを責めていないわ」

これじゃヴァルはおさまらないわ。

マリアの役に立つ意見や解釈を何のために努力して考え、

喜ばせようとしているのか、マリアが好きだからじゃないですか。

「解釈と演じるのは別」だなんて屁理屈きかされたって

ヴァルはそれこそ面白くないわよ(笑)。ヴァルっていい子よ。

あまりシャープだからマリアは煙たいときがあるのだけど、

親身になって自分のことを考えてくれていることは

わかっているのだし、それに何と言ってもヴァルは

随分年下なのだから、つれなくされると辛いし寂しいのよ。

もう少しマリアは素直にやさしくしてあげるべきだったわね。

 

(「アクトレス~女たちの舞台~」)

 

 

bn_charm