VOL.6 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(3)

 

「小倉○○」や「あずき○○」を見かけたら取り敢えず食べる衛澤ですご機嫌よう。

 前々回は「とりかへばや物語」、前回は「転校生」についてお話ししてきました。何れの作品もジェンダー・セクシュアリティについて考えるきっかけとなり得るお話でした。
 今回は「とりかへばや物語」と同じ平安時代に立ち返りまして、同時代の別作品に触れてみます。

 「とりかへばや物語」と成立を同じくする平安文学の代表的なものには「枕草子」や「源氏物語」があります。どちらもみなさん教科書で御覧になったことがおありかと思いますが、教科書でみなさんがお読みになった部分というのは、実はあまりおもしろくないところです。
「枕草子」も「源氏物語」も、ほんとうは大変な作品であります。

 「枕草子」は中宮定子さま大好きっ子の平安のブログ女王、清少納言さんが

「十八、九ばかりの人の、髪いとうるはしくて、たけばかりに、裾いとふさやかなる、いとよう肥えて、いみじう色白う、顔愛敬づき、よしと見ゆるが、歯をいみじう病みて、額髪もしとどに泣き濡らし、乱れかかるも知らず、面もいと赤くて、押さへてゐたるこそ、いとをかしけれ。」
(18〜19歳くらいの、背丈ほども長い髪が綺麗でふくよか、とても色白のかわいい女の子(中宮定子さまのこと)が、歯が痛くてぐっしょり泣き濡れて髪の乱れるのも構わず、顔を真っ赤にしてるの、めっさかわいい)

 とか平気で書いちゃってる我が国最古のレスビアン文学です。しかも「枕草子」は中宮定子さまにお読み頂くために書いていたものです。ナゴン姐さんのブレイヴハートに戦慄。

 一方「源氏物語」は我が国最古最強のプレイボーイ光源氏さんが数多の女性を口説き落として関係を結ぶという、我が国が世界に誇る最古最長のエロ小説もとい恋愛大河小説ですが、第三帖「空蝉」にはこのような描写があります。

「寝られたまはぬままには、「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵なむ、初めて憂しと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくて、ながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」などのたまへば、涙をさへこぼして臥したり。いとらうたしと思す。手さぐりの、細く小さきほど、髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも、思ひなしにやあはれなり。」
(寝られないままに「私はこれほどに女性に嫌われたことはなかったのに、今夜はじめてこの世は儘ならぬと思い知った。恥ずかしく生きていられない」などと(光源氏が)仰ると、(小君は)涙までこぼして臥している。ほんとうに可愛いと(光源氏は)お思いになる。手で触れた(小君の)ほっそりとして小さな、髪のあまり長くない感じが(空蝉と)似ているのは何とはなしに愛しい)

「空蝉」というのは女性の名前(通称)です。「小君」はその弟。空蝉さんと一度は通じたものの、その後会って貰えないことが続いた光源氏さんは弟の小君を使って何とか会おうとするのですが、やっぱり振られてしまいます。上記はその後の場面です。
 光源氏さんは空蝉さんに振られてしまったのですが、その弟が空蝉さんとよく似ているので睦まじくして、更には愛着まで感じてしまっている、まさかのボーイズラヴ展開。1000年も昔に我が国には既に同性愛的描写が行われている文学が存在し、しかもそれが貴族階級(知識階級)の間で大流行していたのです。
 
 これ等は、本来、我が国の人はセクシュアリティやジェンダーに関することに寛容であったということの証左であると言えるでしょう。「男は男らしく、女は女らしく、それが我が国の歴史と伝統」などと唱えている頭の固い人たちが言う「歴史」なんて、欧州のキリスト教的文化に染められた明治維新以降の、たかだか150年にも満たない短い間のことに過ぎないのです。翻って、1000年の歴史を見よ。

 もともと日本の人はいろいろなことに寛容です。宗教だってこだわりません。他所の国の宗教だって入ってきてOKだし、仏教徒だって他教のハロウィンやクリスマスを祝います。音楽だって西洋音楽のロックと伝統音楽の民謡を融合させた名曲「イエローサブマリン音頭」だとかハウスと演歌が融合した「ハウスおまんた囃子」なんて曲があったりします。
 いろいろなものを受け容れて更に洗練させることができる国に住む私たちは、新奇なものごとに出会ったときには、先ず受け容れることからはじめたいものです。嫌ったり否定したりは、その後でだってできるんですから。

Vol.1 はじめまして!

Vol.2 今回はちょっと長めに「わかやま愛ダホ!」

VOL.3 子宮の中の……?

VOL.4 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(1)

VOL.5 一般書で知るセクシュアルマイノリティ−古典編(2)

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■衛澤 創(えざわ・そう)
和歌山市出身。文筆家。随筆・小説を主に書くが特に分野にはこだわらず頼まれたものを書く。
性同一性障碍者。足掛け15年かかって性別適合手術をすべて終え、その一方で性的少数者の自助グループに関わって相談業務などを行う。
性同一性障碍であると同時にゲイでもあり、「三条裕」名義でゲイ小説を書くこともある。
個人サイトに性別適合手術の経験談を掲載しているので、興味がある方はどうぞ(メニューの「記録」から)。
個人サイト「オフィス・エス」http://officees.webcrow.jp/