キャロル

「………」「………」

セリフだけで1本の映画をどこまで追いかけられるかを試み、最終日はセリフなしとなりました。本当に何もしゃべらなかったのだから仕方ないです(笑)

ルーニー・マーラが瞳にだけ、かすかに笑みをたたえます。

ケイト・ブランシェットの表情は虚無的でさえあり、途方にくれたようでもあり、ややあって、あるかないかの微笑が唇の端に浮かびます。

ラストシーンで示した、キャロルの思いに対する、ケイト・ブランシェットの読み込みは素晴らしかった。

パトリシア・ハイスミスの原作にあるように、これからのキャロルの人生が「天国あるいは地獄」だとケイトは把握したわけね。テレーズと一緒になる、それはきっと歓びと幸福をもたらすにちがいない、その一方で、世間の目におぞましいと映る関係に責任を持って暮らしていく、それを選んだことでもある。

でもテレーズはここへ来たのだ。自分たちふたりにとって決して快適とはいえない、祝福もない社会で生きていくことを、テレーズもまた受容しようとしている。このシーンでキャロルとテレーズが見つめているものこそ、スクリーンに現しようのなかったもの、原作者の書く「天国あるいは地獄の」ふたりでした。ものいわぬ、力強い演技でした。

 (「キャロル」)