キャロル

「ご予約は?」「人を捜しているの」

ホテルのレストランでボーイ長が呼び止める。「ご予約は?」

「人を捜しているの」そういって、テレーズはずんずん奥にいく。

制止する声に耳を貸さない。いくつもの満席のテーブル、ざわめく話し声、

席と席のあいだを泳ぐように行き交うボーイ、柱の陰、下げられていく器物、人と音のなかをテレーズはゆっくり歩いていく。キャロルがいた。

テレーズは足を止め、見つめる。

談笑するキャロルはまだ気がつかない。

テレーズは見つめ続ける。頭をめぐらしたキャロルの視線が動き、動いた視界にとうとうテレーズが入った…。

(「キャロル」)