キャロル

「行くといいわ」「本当に?」

「新しい部屋はとても広くて素敵なの。ふたりでも住めるわ。どうかしら」

「それはできないわ」

キャロルが「会いたい」と行ってきたとき、仲直りの申し出だとテレーズは直感しています。それ以外余計なことをいってくるキャロルではない。別れるものなら、自分を置き去りにしたときで終わっています。それがわかっていたから、テレーズは待ち合わせの場所に行ったのですね。ただし煮え湯を飲まされた後だから、一度は断ってやろう、そう決めて。

でもなつかしく、やさしいキャロルの声で「愛しているわ」と聞いたとたん、

テレーズはグラグラ。何かいいかけたとき、テレーズを見かけた友人が「パーティーに行くのだろう?」と声をかける。彼が言い終わらないうちにキャロルはコートに手を伸ばしています。

「行くといいわ」「本当に?」不覚にもテレーズは聞き返してしまう。

「もちろんよ。テレーズ、いい夜を」

すっと席を立ち、自分の肩に置いたキャロルの手に、テレーズの視線が落ちる。

(「キャロル」)