ハイテンション20160120

 

「愛してる? 愛してない?」

セシルは大きなチェーンソーを持って恋人をおいかけます。
どっちも返り血で真っ赤です。
車がクラッシュして割れたときの、大きなガラスの破片が足に刺さっている恋人は走れない。
追いついたセシルが聞く。
「わたしを愛している? 愛してない?」。
冗談じゃない。
首を横に振ると、セシルの凶暴性は憎悪に変わる。
悪夢のように恋人は叫ぶ。
「愛しています! 愛しています!」
セシルは満足し、表情は柔和になり、恋人をだきよせ、かなり濃厚なキスをします。
こういうところをコテンコテンに撮るのがアレキサンドル・アジャ監督です。
それでいて猟奇的に堕さず、狂気の愛の哀しみがラストににじむ。
その詩情ゆえ、わたし、アジャを「ホラーの貴公子」と呼んでいます。

(「ハイテンション3」)