ケイト・ブランシェット

おはよう、リハの前に

〜 「TAR ター」102

おはよう、リハの前に   ターは新しい職場にいる。 指揮台に立つ前に、ターは生徒たちに話しかける。 「おはよう、リハの前に作曲家の意図について話しましょう」 どこにいてもターはターだった。 アジアの名も無い学校も、ニューヨークの名門ジュリアードも 教えることに変わりは...

番号を選んで

〜 「TAR ター」101

番号を選んで   時差で肩が凝った。マッサージ店を訪ねた。 教えてくれた推しの店にきた。 番号で選んでと受付が言う。 案内されたのは大きなガラスが仕切った広い部屋で 10数人の少女が白衣を着て並んでいた。 胸に番号をつけている。 なんとなく「5番」と目が合った。...

処方薬10ドルです

〜 「TAR ター」100

処方薬10ドルです   薬局で処方薬を買う。 ターは安定剤が手放せない、神経の細いところがあります。 成功を追ったストレスと、それを維持してきた重圧か。 幻聴と幻影が何度となくターを苦しめていた。 過剰なほど潔癖症で、何度も手指を消毒する。 しかしここにきて、消毒の習...

入っていい?ありがとう

〜 「TAR ター」98

入っていい?ありがとう   黒いカッパを頭から被ったターがたどり着いた家。 後ろに見えているのはアジアの下町だ。 ターは受け入れ先に着いた。家族は花束で歓迎し、 町を案内すると言う。 ここではチャーター機の移動もない。 リムジンの送り迎えもない。 ガタピシ揺れる...

リンダ、失礼、リディア

〜 「TAR ター」97

リンダ、失礼、リディア   兄のトニーが帰ってきた。ターに気づく。 「リンダ、失礼、リディア」 ターは本名リンダを、ヨーロッパふうにリディアに変えていた。 「帰っていたのか。ここは隠れ家か」 「なぜ私が隠れるの?」 「知らねえ。俺には関係ねえ。だが訳ありだろ。迷子の顔...

百万の言葉より感情を語る

〜 「TAR ター」96

百万の言葉より感情を語る   ターが生家に来た。ニューヨークの下町の普通の家だ。 暗くて狭い2階建て。 裕福でない家に生まれ、刻苦精励して今に至った。 学生時代の思い出の品々。メダル、記念品。 師バーンスタインの録画を再生する。 彼は語りかけてきた。 「音楽の意...